過激な環境保護活動家に襲われる

カボチャのスープを投げつけられる
政治的主張で“襲撃”は逆効果
近年、世界的名画が、環境保護の若い過激な活動家によって襲われることが増えている。フィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり」、クロード・モネの「干し草の山」、エドヴァルド・ムンクの「叫び」などが被害に遭っているが、中でも今年レオナルド・ダ・ヴィンチの最高傑作とされる「モナリザ」にカボチャのスープを投げつけた衝撃は大きかった。
芸術作品が保存状態も良く生き延びるのは容易ではない。裕福なユダヤ人が所有する名画は、美術好きのヒトラーに強制的に押収されたが、芸術の分からないゲシュタポのために損傷を受けた例は少なくない。
1912年に処女航海で沈没したタイタニック号には、モネやドガ、ピカソの作品があった(うそや作り話を含め)と言われる。
作品にとって最も安全なはずの美術館に展示された名画に、ペンキやスープがかけられる事態をどう受け止めるべきなのか。
ダヴィンチの「モナリザ」は、頑丈な防弾保護ガラスと近づけない木製カウンターで守られていたが、今年1月カボチャのスープがかけられた。
そもそも「モナリザ」が世界的に知名度を得るきっかけとなったのは、1911年にイタリアのガラス職人ヴィンチェンツォ・ペルージャによって盗まれ、イタリアに2年後に持ち帰ったところをフィレンツェの古美術商から当局に通報され、作品が回収されたことがある。
1956年、モントーバンのアングル美術館に展示されていた「モナリザ」に来館者が酸をかける事件が発生した。酸によって作品下部に大きな損傷を受けた。この時点でより頑丈なガラスの保護が決定したという。
その後、精神障害を持つボリビア人男性が作品に石を投げつけ、ガラスの破片で絵の顔料が一部剥がれたが致命的なダメージを与えることはなかった。
ルーヴル美術館を滅多に離れることのない「モナリザ」は米国に次いで1974年、東京の国立博物館に展示され、150万人(米国では170万人)が来場したが、来場者の1人、25歳の日本人女性が公開初日に女性や障がい差別を訴え、キャンバスに赤いスプレーを吹き付けた。
2009年には滞在ビザ発給を拒否されたロシア人女性が美術館のティーカップを「モナリザ」に投げ、さらに2022年には、パリ近郊に住む男性が車いすに乗る女性高齢者に変装してクリーム菓子を投げつける事件が発生した。そして今回、カボチャのスープがかけられた。
「モナリザ」は世界で最も有名な16世紀の西洋絵画で、世界に存在する美術作品で最高の保険価値が想定され、市場に出回ることはないにせよ、その価格は約8億6000万㌦(約1275億円)と推定され、1枚の絵としては文字通り世界で最も高額の作品だ。
ルーヴルで2019年10月~2020年2月まで開催されたダ・ヴィンチの「没後500年の特別記念展」の来館者数は110万人と、史上最多の動員を記録した。
文字通り世界最大規模のルーヴル美術館が保有する最高の集客力を誇る名画を標的に政治的主張で襲撃する行為は、稚拙なだけでなく、彼らの主張にとって逆効果だったと言える。
(安部雅延)