廃墟の芸術 瓦礫が語る歴史

現代人に多くの問いを投げ掛ける
記憶と忘却など300点の絵画
日本では能登半島地震で生まれた瓦礫(がれき)が多くの人々の記憶に焼き付けられている。ウクライナの戦争で廃墟(はいきょ)と化した都市、パレスチナ自治区ガザの瓦礫の山を世界中の人々が映像を通じて目撃している。一方、美術の世界にも廃墟をテーマとした作品が残されている。
集客力を最優先にする展覧会の多い昨今のフランスだが、リヨン美術館で開催中の「遺跡の形」展(3月3日まで)は、少々重いテーマだが、昨今、廃墟を目にする機会の多い世界の情勢からすれば、久々に時間をかけてじっくり理解する意味のある展覧会といえそうだ。
写真や映像のない時代は、絵画や彫刻は現実を再現する唯一の手段だった。ただ、写真と異なり、現実を正確に写し取るだけでなく、宗教画にあるような作家の想像が反映されるのが絵画だ。そのため、廃墟と再建を同居させたり、瓦礫に意味を持たせたりすることも可能だ。
300点に上る廃墟をテーマにした絵画には、例えば、フランドルの風景画家、マチュー・デュビュスの「ソドムとゴモラの破壊」(1610年作)は、旧約聖書の創世記19章1節にある堕落し、腐敗しきった町を神が滅ぼした後の姿を描いている。瓦礫の石に閉じ込められた町は20世紀の印象派やアンフォルメルの画風をほうふつとさせる絵でもある。
美術史家で考古学者のアラン・シュナップ(パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学の名誉教授)が著した『普遍的な遺跡の歴史、起源から啓蒙まで』に着想を得た同展覧会は、記憶と忘却、自然と文化の間の緊張、物質と非物質の間のつながり、現在と未来の間の対立という四つのテーマで構成されている。
「戦争の遺跡」に特化したセクションは、今、まさにわれわれが目撃している戦争の瓦礫で、「未来の遺跡」は、少々悲観的で、人間は結果的に廃墟に住むことになるという、エヴァ・ジョスパンによる巨大な段ボールのインスタレーション(古代の遺跡)が展示されている。
人間の愚かさが生み出す大量の廃墟の意味を問い直す展覧会は、瓦礫を目撃しながら生きている現代人に多くの問いを投げ掛けている。それは文明とは何かという問いでもある。ヨーロッパは石造りの建物を岩盤の上に立て、上下水道などのインフラの高度な技術を装飾で飾った芸術的町づくりを繰り返した「構築の文化」だ。その意味で同展は深い意味を持ちそうだ。
目を引く18世紀を代表するフランス人画家、ユベール・ロベール作の「廃墟となったルーブル美術館の想像ビュー」は革命後の同美術館の想像的風景だが、同美術館に深く関わってきたロベールが大革命で死刑を免れ、10カ月の拘留期間を経て、制作した作品だ。
彼はローマでの生活で古代遺跡に囲まれながら生きる現代人を目撃し、廃墟と同居する現代人をテーマにした作品を多く残した。廃墟は人間が歴史に刻んだ物語であり、さまざまな感情を呼び起こすものと言える。
(安部雅延)







