世界中で合計42の芸術イベントが開催
#MeToo運動の矛先 巨匠にも

今年はスペインの巨匠画家パブロ・ピカソの没後50周年ということで、世界中で記念イベントが目白押しだ。仏美術誌コネサンス・デアールの調べでは、世界中の40近くの文化機関で、合計42の芸術イベントが「ピカソ年」にちなんで開催されるという。
今年9月23日からマドリードで「パブロ・ピカソと彫刻の非物質化」と題する特別展が開催されるほか、米ニューヨークのメトロポリタン美術館やブルックリン美術館でも展覧会が開催される。
ピカソが21歳以降の人生の大半を過ごしたフランスでも、ポンピドゥー・センター、ピカソ美術館、プチ・パレ美術館などで「ピカソ特別展」が開催される。過去にない世界規模のピカソ年を祝うことになる今年だが、ピカソの天才性と偉業だけを讃(たた)えることになりそうもない。
ピカソが女性にとって有害な男だったという見方が過去のいかなる時代よりも指摘されている。彼の多くの女性作品は、その時に付き合っていた女性がモチーフとされており、時には同時に数人の女性と関係を持っていたとされる。しかし、芸術家の女性遍歴は過去において許容されており、「巨匠にありがち」などと大目に見られてきた。
ところが、ハリウッドスターが大物プロデューサーや監督から性的暴力を受けていたことが被害女性の告発で次々に明るみに出て、昨年はハリウッドの元プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン被告が有罪判決を受けた。#MeToo運動の高まりから、女性蔑視(べっし)や人権侵害はあらゆる範囲に広がり、フランスでは女性芸術家を扱う大規模展覧会が急増した。
まず、ピカソの天才性について異論を唱える専門家はいない。
ピカソはパリに移動した20世紀初頭から、陰鬱(いんうつ)なムードの「青の時代」から、一気に鮮やかな色合いに代わった「薔薇の時代」があり、すでに彼はパリでもてはやされる芸術家の寵児(ちょうじ)で生活も安定していた。この1904年以降、彼のモデルで愛人となったフランス人アーティスト、フェルナンド・オリヴィエとの出会いに始まり、激しい女性遍歴は生涯続いた。
ピカソの研究者たちは作品だけではなく、その背景にある女性関係から作品を再文脈化する必要があると指摘する動きが活発だ。彼の人生を飾ったフェルナンド・オリヴィエ、エヴァ・グエル、オルガ・ホフロヴァ、マリー・テレーズ・ヴァルテル、ドラ・マール、フランソワーズ・ジロー、ジャクリーヌ・ロックは大半が非常に悲惨な人生の結末をもたらしたからだ。
ピカソは、幾つかの絵画で自分自身を神話上のミノタウロスとして描いており、彼が愛したミューズは獣の攻撃の犠牲者だったと指摘する評論家もいる。ピカソは81歳の時に46歳年下の2番目の妻ジャクリーヌ・ロックと結婚したが、彼女はピカソの死後、自殺した。
晩年、ピカソは愛とセクシュアリティーをテーマにした作品を大量に描くと同時に狂暴なミノタウロスを暗示する自画像が作品に描かれている。反女性蔑視活動家らがこれを見逃すはずはなく、ピカソは今年、巨匠の評価を確実にする一方、巨獣の側面にも光が当たりそうだ。
(安部雅延)