国連経済社会理事会で特殊諮問資格を持つ欧州の非政府組織(NGO)が、日本で安倍晋三元首相銃撃事件を機に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)信者に対する深刻な人権侵害が起きているとして、国連の自由権規約人権委員会に緊急対応を求める報告書を提出した。同委員会は日本も批准している「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」の実施を監督する機関だが、報告書は日本の旧統一教会への対応について、信教の自由や参政権などを保障した同規約のさまざまな条項に違反していると糾弾している。
報告書で旧統一教会をめぐる日本の状況について国連に苦情を申し立てたのは、パリに拠点を置く「良心の自由のための団体と個人の連携(CAP―LC)」という信教の自由擁護に取り組む国際団体。
報告書は、日本で旧統一教会に対する「不寛容、差別、迫害のキャンペーン」が繰り広げられ、「信者の人権が深刻かつ組織的に、そしてあからさまに侵害された」と断言。国連自由権規約人権委員会に対し、「日本の信者の苦しみが続いていることを鑑み、これらの問題が緊急に解決されることを望む」と訴え、来月10日から始まる会合で取り上げるよう要求した。
自民党は旧統一教会および関連団体と一切関係を持たないと宣言した。だが、報告書は「神を信じる者たちを政治的活動や公職から排除することは、彼らを二級国民とし、国の生活や制度に参加する基本的な権利を奪うことになる」と批判。「市民が信者として民主的プロセスに完全に参加する自由と、政治家が自分で選んだ宗教の指導者や信者と相談し協力する自由の両方が危険にさらされている」とし、日本の状況は差別や不合理な制限なしに政治に参加する権利を保障した自由権規約第25条に違反すると断定した。
旧統一教会に対する献金を制限する措置が検討されていることについて、報告書は信教や良心の自由を保障した自由権規約第18条、宗教などに基づく差別を禁じた同26条、結社の自由を保障した同22条に違反すると警告した。
フランスをモデルに「反カルト(セクト)法」の制定を求める意見も出ているが、報告書は反カルト法について同18条に違反すると明言。欧州裁判所はフランスがカルトと認定した宗教団体への寄付に課税したことを「嫌悪する宗教団体を差別する手段にすぎないと裁定した」と指摘した。
報告書はまた、旧統一教会批判が過熱する中で、信者に対する差別やヘイトスピーチ、脅迫、暴力が起きていることを具体的事例を挙げて問題視。この状況は信教の自由侵害だけでなく、身体の自由や安全を保障した自由権規約第9条に違反するとし、「弁護士やメディアが統一教会のようなカルトは公的に辱められ、処罰されるべきであると示唆している」ことが危険な風潮を煽(あお)っていると批判した。
さらに報告書は、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の一部弁護士が旧統一教会信者に対する「ディプログラミング」と呼ばれる強制的な改宗行為を支持していることを批判。ディプログラミングはほとんどの国で禁止されているにもかかわらず、日本では拉致・監禁などの行為によって強制改宗させられた旧統一教会信者が約4300人に上るという。
報告書は、全国弁連がこれらの元信者に旧統一教会を訴えさせることで「莫大(ばくだい)な利益を得ている」と痛烈に非難。また、全国弁連の旧統一教会を中傷する主張が国内外のメディアに受け入れられていることについて、名誉や信用を傷つけることを禁じた自由権規約第17条などに違反すると明記した。
河野太郎消費者担当相・消費者庁が設置した「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」には全国弁連の紀藤正樹弁護士が加わっているが、報告書は「公平でも信教の自由に好意的でもない全国弁連の弁護士が加わり、統一教会に対するさらなる措置を検討していることは大いに憂慮すべきことだ」と表明した。政府が設置した合同電話相談窓口についても、旧統一教会に関するトラブルの相談だけを受け付けるのは、「自由権規約が禁止する明確な差別の事例」と断定した。