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物足りなさ残る上野氏祝辞


 「あなたたちは頑張れば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、…頑張ってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」

 今年の東大の入学式で、女性学(ジェンダー研究)の先駆者で元東大教授の上野千鶴子氏(NPO法人ウィメンズ・アクション・ネットワーク理事長)の祝辞が話題になっている。

 一読してみたが、最後の「大学で学ぶ価値」と、その前にある以下の主張は、全面的に同感する内容だった。

 「頑張ったら報われると思えることが、環境のおかげだったことを忘れないようにしてください。…あなたたちの頑張りを、恵まれた環境と能力とを、恵まれない人々を助けるために使ってください」

 残念なのは、「頑張っても公正に報われない社会」の説明が性差別だけに限られていることだ。高校までは「タテマエ平等の社会」で「偏差値競争に男女別はない」が、大学入学時点で多くの医科大・医学部で明らかになったような「隠れた性差別が始まっており、社会に出ればもっとあからさまな性差別が横行している」と説いている。

 その通りなのだろうが、差別という枠だけでみても、世界には人種や民族、宗教をはじめとする、もっと多くの差別が存在する。筆者の体験でも、中学時代には学力に関係なく家庭の経済事情で中卒で就職する生徒がクラスの2~3割はいたし、いわゆる同和問題も根強かった。時代を遡れば、戦争や戦後の価値観転換の中で不当な差別を受けた人たちも少なくない。なぜ地域差や時代を超えてそんな差別が起こるのだろうか…。

 上野氏は新しい女性学に取り組んできた動機を「飽くことなき好奇心と、社会の不公正に対する怒り」と述べているが、性差別だけの切り口は新東大生の「飽くことなき好奇心」と「社会の不公正(に対する認識)」を刺激するには少々物足りないような気がするが。

(武)