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児童虐待、心の傷へのケアは十分か


 児童虐待が深刻化の一途を辿っている。被害の広がりと、その深さの両面でだ。本来、愛情を持って育ててくれるはずの親から、暴力を振るわれた子供の将来を思うと、暗澹(あんたん)となる。

将来に対する関心の低さ

 虐待が世代間で連鎖すると言われるのは、被害児の心の傷の深さ故である。虐待そのものへの関心は高まったが、被害児の将来にはあまり関心が持たれていない。虐待防止に努めるのは当然だが、被害児の心のケアに力を入れ、不幸に不幸が重なるような事態を防ぐには何をすればいいのか。この点についての研究を進める必要があろう。

 昨年度、児童相談所(児相)が対応した虐待件数は初めて12万件を超えた。記録の残る平成2年以降、26回連続という忌まわしき記録更新だ。また、全国の警察が今年上半期、虐待被害の疑いがあるとして児相に通告した子供の数は、前年同期比5751人増の3万262人に上った。こちらも半期ごとの統計がある平成23年以降、3万人を超えたのは初めてだ。

 児相の対応件数が増え続けるのは、家庭の養育力が低下したことで、実際に虐待が増えたことが第一にある。それに、社会の関心が高まったことが重なっている。特に、子供に暴言を吐いたり、子供の前で夫が妻に暴力を振るったりする「面前DV」などの「心理的虐待」の被害への理解が深まり、それが警察からの通告増加につながった。

 今年上半期で、生命や身体に危険があるとして、警察が緊急に保護した子供は1800人近くに達した。事件の被害者となった子供は519人で、うち27人が死亡している。こうした被害の深刻化を背景に昨年行われた児童福祉法改正では、被害児を迅速に保護するため、市町村における支援拠点の整備や児相の体制強化などが明記された。

 虐待への対応としては一歩前進だが、虐待の世代間連鎖を断つには保護した子供たちの心の傷に対する厚いケアが不可欠である。命を守ることは最低限のこと。施設に送って18歳までそこで生活させただけではあまりに不十分である。温かい家庭で育てられなかった子供に対する関心が低いというのは社会の重い課題である。

 虐待には、心理的虐待やネグレクト(育児拒否)のほか、身体的・性的虐待がある。心理的虐待でさえも子供は傷つくのだから、暴力・性被害を受けた子供に何が起きるか。

 虐待被害児に対する偏見は絶対に持つべきではないが、たとえ心理的虐待でも、共感など社会的行動に関わる脳の働きが低下する。このため、適切な治療が行われないと、精神疾患のリスクが高くなったり、将来、生活保護に陥りやすくなったりすることは大規模調査で明らかになっている。虐待の連鎖を断つには、この被害の深刻さに対する認識を深め、保護早期からの適切なケアを可能にする体制確立を急ぐべきである。

国と社会が責任持て

 子供の健全な成長に責任を持つのは親や家族である。しかし、その親から虐待された子供が健全な心を持った大人に成長することに責任を持つのは国と社会である。