世界日報 Web版

患者中心の医療


 会社近くに最近開業した歯科クリニックに通院し、詰め物が外れた奥歯の治療を続けている。歯医者に診てもらうのは、30年ぶり。歯の手入れの重要性が叫ばれる昨今だから、「定期的に歯の手入れをしなさい」と説教されるのかと身構えて治療室に入ったが、予想に反し、そこのクリニックの歯科医もスタッフも親切で、感じがいい。

 治療を始める前は、医者の方から「よろしくお願いします」と、あいさつしてくる。丁寧な対応に気分を良くしたので、この際、その医者に治すべきところは全部治してもらうことにした。

 「患者中心の医療」が言われている。患者目線で医療を考えようという時代の流れもあって、医療関係者を取材すると、かつてのように「患者」と呼ぶ医者はほとんどいなくなった。「患者さん」は当たり前で、最近は少なくなってきたが、「患者様」という医療関係者もいる。

 人と人が関わる分野では、コミュニケーション・スキルは仕事を効率良く進める上でのキーポイントだ。それは医療も同じ。医者と患者との信頼関係は、治療効果に大きく貢献することが分かっており、医学教育では患者とのコミュニケーションの重要性が強調されている。

 ある心臓外科医がこんなことを語っていた。「患者さんに信頼されると、それに応えて、『必ず治す』と力が入る」と。その一方で、「象牙の塔」と言われるように、医学界には、いまだに「閉鎖社会」を思わせる習慣が残っているのも事実だ。

 最近、医者からのメールで、筆者の名前の後に「様」とする代わりに「先生御侍史」とあったのを見て驚いた。御侍史とは「おんじし」と読み、秘書のこと。「直接、手紙を渡すには先生は偉過ぎるので、秘書宛に申し上げます」という意味だ。

 こんな独特の習慣が残っているのが医学界。患者中心の医療にするための医学教育の充実が叫ばれるゆえんだろう。(森)