世界日報 Web版

「十年一日」の東電


 先日、正月を迎えたと思っていたらもう2月末だ。「1月往(い)んで、2月は逃げて、3月去る」。子供の頃、年初の慌ただしさ、時の流れの速さを表すこんな言葉を祖父から学んだ。

 当時、韻を踏むという言葉は知らなかったが、「いちがつ」が「いぬ」、「にがつ」が「にげる」、「さんがつ」が「さる」と同じ音を使ってうまいことをいうものだと思った。「往ぬ」という言葉は、故郷の四国では「おっさんはもう往んだわ」とか「はよう往なんと会えんわ」などと、「行ってしまう・帰る」という意味で普通に使われていた。

 少しスパンが長いが、同じように時の流れの速さを根底にした熟語に「十年一昔」がある。世の中の移り変わりが激しく、10年も経つと忘れ去られ昔のことになってしまうという意味だ。今は世の中の変化の速度が速いので「五年一昔」、あるいは「三年一昔」と言ってもいいかもしれない。

 この基準でみると、2011年3月11日に発生した東日本大震災が、もう昔の出来事のように感じる人も少なくないはずだ。そんな事情も考慮したのだろうか。東京電力が大震災から満5年を半月後に控えた24日、福島第一原発事故の当時、「なかった」としていた炉心溶融(メルトダウン)の定義を明記したマニュアルが実は存在していたが使用されなかったと発表した。

 東電は当初、「炉心損傷」であって「炉心溶融」ではないと発表したが、2カ月も経(た)ってから正式に炉心溶融を認めた。その弁明「定義づけるものがなかった」ということが嘘(うそ)だったとすれば、その間の対応を誤らせた点で重大な問題だ。なのに責任ある人間の謝罪も、なぜそうなったのかという説明もせずに済まそうとしているように見える。

 学歴も地位も給料も高いエリート集団・東電の「十年(五年)一日」の如き無責任な姿が、どれだけ子供達に悪影響を与えるか、考えるだけで悩ましい。(武)