茶の香り漂う表参道 賑わう観光客
京都の南に位置し、神社仏閣や緑茶の生産地として知られる宇治市。10世紀に建てられた仏教寺院の平等院には、天下泰平の象徴とされる鳳凰を冠した鳳凰堂が優美な姿を見せる。境内のノダフジやツツジもちょうど見ごろである。隣接する「鳳翔館(ほうしょうかん)」は平等院に伝わる宝物を展示する博物館として見逃せない。宇治川の中州に整備された公園「中の島」を散策すれば意外と面白い発見も。(文と写真・辻川吉夫)

京阪宇治線の「宇治」駅で降りる。駅前の宇治大橋を渡ると、たもとに「源氏物語」の作者とされる紫式部像が。すでに多くの観光客が銅像の前を行き交っている。そのすぐ先が平等院への表参道である。室町時代から続くという宇治茶の老舗が立ち並び、店内からお茶の香りが漂い、さすがに「かおり風景100選」に選ばれている道である。

拝観受付を済ませて境内に入ると、ハッと息をのむ美しさの藤棚が目の前に。今が見ごろのノダフジは花房の長いもので1㍍を超える。周囲のツツジと共に庭全体に色鮮やかな景色が広がっている。

平等院は永承7(1052)年、関白・藤原頼道によって開かれた。翌年、名仏師・定朝作の阿弥陀如来坐像を安置するために建てられたのが鳳凰堂(国宝)である。鳳凰堂が日本国政府発行の10円硬貨に描かれているのはご存じの通り。阿字池に浮かぶ鳳凰堂を中心に西方極楽浄土を表したという庭園をゆっくり散策すれば、その優雅なたたずまいに心癒やされること間違いない。
隣接するミュージアム「鳳翔館」では、貴重な宝物を間近に見ることができる。特に平安時代に造られた国宝の鳳凰一対と十一面観音立像、それに飛んでいるように壁に飾られた雲中供養菩薩像26体が圧巻だ。雲に乗って楽器を奏でたり舞ったり、それぞれポーズのバリエーションも楽しい。
平等院を出たら、宇治川沿いを歩いてみよう。川の中州に浮かぶ橘島と塔の島から成る中の島が公園としてきれいに整備されている。川岸と中の島は喜撰橋、橘橋、朝霧橋、中島橋で結ばれ回遊できる形。観光客や地元の人たちの散策や休息場所になっている。

塔の島にそびえる十三重石塔は高さ15㍍、日本最大の石塔として重要文化財に指定されている。弘安9(1286)年、宇治橋の安全などを祈願して西大寺の僧・叡尊によって建立された。その後、洪水や地震でたびたび倒壊があり、現在の石塔は明治時代末期に発掘されて修築されたものという。これだけの巨石を高く十三重に積み上げた建立当時の奮闘努力がしのばれる。
中の島では「ウミウ」の飼育小屋が見学できる。宇治川の鵜(う)飼いは夏の風物詩として有名。鵜飼いとは鵜を使って魚を捕る漁法で、わが国では千年以上前から行われているという。

鵜飼いで鵜を操る人は鵜匠(うしょう)と呼ばれ、鵜飼いシーズン中(7~9月)はもちろん、年間通じて鵜の世話をしながら、鵜飼いができる鵜に育てていく。人工ふ化により毎年ヒナが生まれ、元気に育っているという。宇治で生まれたウミウは「ウッティー」と呼ばれて親しまれている。
5月は新茶の季節。平等院表参道を中心に、お茶や〝お茶スイーツ〟を楽しめるお店は30店舗以上あり、どの店も観光客で大賑(にぎ)わい。茶臼を使用した抹茶作りを体験できる施設「茶づな」も駅から近い。茶畑での茶摘み体験は5月中旬頃まで可能だ。
今回訪れる予定だった宇治上神社は拝観時間が過ぎてしまい(16時で終了)、見学できなかったが、現存する神社ではわが国最古の建物として世界遺産に登録されている(本殿と拝殿は国宝)。





