トップ文化エンタメ芸能『囚われの旅人』が伝える世界 Vol.2 「終戦の日」に平和願うコンサート

『囚われの旅人』が伝える世界 Vol.2 「終戦の日」に平和願うコンサート

ウクライナの歌も披露

 終戦から81年を迎えた15日の「終戦の日」、記念コンサート「『囚(とら)われの旅人』が伝える世界Vol.2」が東京都新宿区のショコラスタジオで開かれた。バリトン歌手田中利幸さんによるモンゴル抑留者伝承の曲「囚われの旅人」、ソプラノ歌手松本幸枝(ゆきえ)さんによるウクライナの「キーウの鳥の歌」などが披露された。昨年に続き2回目となる今回、終戦の日にふさわしい平和を希求するコンサートとなった。(文、写真・賀好 広)
アンコールに応え、モーツァルト作曲「パ、パ、パ」をユーモアたっぷりに歌う田中利幸さん(右)と松本幸枝さん=15日午後、東京都新宿区のショコラスタジオ
アンコールに応え、モーツァルト作曲「パ、パ、パ」をユーモアたっぷりに歌う田中利幸さん(右)と松本幸枝さん=15日午後、東京都新宿区のショコラスタジオ

 「今回のコンサートへの意気込みは半端ではありませんでした。3カ月前から練習に取り組みました。3カ月というのはプロボクサーが1試合に備える期間に相当します。試合に勝てば1千万円から2億円のギャラが入ることもありますが、ギャラのためのコンサートではありません。心の平和を頂くコンサートです」と田中さんがあいさつし、コンサートの幕が開いた。

 最初に田中さんが歌ったのは「花は咲く」。今まで普通にあった街、当たり前に会っていた家族や友人、それがあの震災によって一瞬にしてなくなってしまった。戦争も同じである。そんな命の尊さを歌った歌だ。

 2曲目も田中さんの歌唱による「汽車」。もともと国威顕彰のために作られた原曲「兵隊さんの汽車」の歌詞で披露した。童謡にまで戦争の足音が及んでいたことを、改めて痛感させられた。

 続いて松本さんが、作詞家の江間章子が終戦直後の焼け野原を目の当たりにし、平和への願いを込めて作詞した「花の街」を情感たっぷりに歌い、田中さんの歌う「縄文の祈り」も聴衆の涙を誘った。

 松本さんの2人の娘さんは、バレエの修行のためウクライナに留学した。首都キーウは「ソビエトのパリ」と言われるほど美しく、広い通りは並木道だった。その町が戦争で破壊されてしまったと思うと涙があふれてくると言う松本さん。「泣かないように歌います」と「落葉松(からまつ)」を歌った。

 続いて田中さんがイタリア語の歌詞で「イデアーレ」を歌い、両者のデュエットで「メリー・ウィドウ・ワルツ」を披露した。1曲1曲すべてに、平和を願う歌詞が込められたプログラムとなった。

 続く第2部の1曲目に歌われたのは「囚われの旅人」。田中さんはモンゴル抑留者遺族代表の鈴木富佐江さんから「この歌を田中さんの声で後世に残してほしい」と依頼を受けたそうだ。

 終戦当時、シベリア、モンゴルに抑留された何万という人たちが、望郷の思いをさまざまな歌に託して作り、皆で歌い合い、励まし合ったという。その歌の中で唯一残っていたのが「囚われの旅人」だった。故郷への思いや戦争の不条理への思いが盛り込まれたこの曲を通して、抑留の事実を多くの人に知ってほしいと田中さんは訴える。また、抑留者が当時、現地に建てたオペラ劇場や大学の校舎などが80年以上たった現在もなお使用されており、日本人とモンゴル人の物心両面の交流があることなども歌に託されている。歌詞を一言一言かみしめるように歌う田中さんの姿に、ハンカチで涙を拭う人もいた。

 田中さんのステージはさらに続き、谷村新司の「群青」、阿久悠作詞の「鳥の歌」を、オリジナル歌手の杉田かおるとは一味違った低音ボイスで魅了した。

 「鳥の歌」に続いて松本さんが歌ったのは「キーウの鳥の歌」。次女の利々子さんはキーウのバレエ学校を卒業後、現地でバレエ教師をする中でウクライナ人と結婚した。そんな幸せもつかの間、ロシアとの戦争が始まった2022年に泣く泣く単身で帰国。以来、夫と別れ別れの生活を余儀なくされている。利々子さんはウクライナのために何か支援したいと考え、「外務省のウクライナ人受け入れ支援」の通訳をしており、そんな娘の姿を見るにつけ、松本さん自身にも何かできることはないかと思案していた時に「キーウの鳥の歌」と出会った。今回1、2番を日本語で、3番を利々子さんから指導を受けたというウクライナ語で披露した。

 田中さんの「千の風になって」に続いて歌ったオリジナル曲「生きている船」は、田中さんの妻でコンサートのピアノ伴奏を務める淳子さん作詞作曲のかわいらしい歌である。実はNHKの歌のお姉さんになりたかったと打ち明けた松本さん。「歌のお姉さんが歌っているように見ていただけたら」と一言付け加え、田中さんとデュエットした。続いて「アメージング・グレイス」を歌い、大盛況のうちに予定のプログラムを成し終えた。

 だが、ここで簡単に終わらないのがコンサートのお約束。アンコールの手拍子に応えて、淳子さん作詞作曲の「ラララありがとう」を披露。松本さんは、子供が通う小学校の歌の外部指導者として7年間務めた。その間に東日本大震災が起き、心を励ます歌はないかと探していた時にこの歌を知り、1年間毎日「第2校歌」として歌った思い出の歌である。最後にモーツァルト作曲の「パ、パ、パ(パパパの二重奏)」を2人が身ぶり手ぶりを交え歌い、大いに盛り上がったところで今年のコンサートは幕を閉じた。

 平和を願うコンサート活動を続ける田中さんと、ウクライナ情勢の渦中にある娘さんを持つ松本さんのコンビによるコンサートが「終戦の日」に行われたことは、大変意義深かったといえる。

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