服務の宣誓が結んだ縁
心の琴線に触れた言葉に魅了

「宣誓」
私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。
(出典=自衛隊法施行規則第39条より)
この誓いは、自衛隊に入隊する際に自分の任務、職責について国民、政府に対して誓う服務宣誓の文言だ。
この「宣誓」に心惹(ひ)かれたのが俳優の前川泰之さんだ。
「『事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。』この部分に私はグッと胸にせまるものを感じました」
前川さんがこの「宣誓」と出合ったのは、2020年に公開された『Fukushima50』(若松節朗監督、主演・佐藤浩市さん、渡辺謙さん)で、災害復興に携わる陸上自衛隊の辺見秀雄陸曹長役を演じることになったからだ。
「震災当時、わたしは身重(臨月)の妻と子供たちがいました。当日は子供たちを迎えに行ったりしながら長時間かけて家に帰ったことを覚えています」「わが家には、その時に生まれた子供がいるので、他と比べると幾分風化する速度が遅いかもしれません」
前川さんは、映画の自衛官役を受けた時、「被災地に支援をしたり、何かをしてきただろうか」と振り返り、被災地の前線で活動する自衛隊員を思ったとき、この冒頭の「宣誓」と出合った。
これを一言一句、常に口に出して覚え、自衛官としての精神を身に付けるかのように口ずさみ、撮影に臨んでいたという。
「(本物の)自衛官になれずとも、その気持ち、その精神に近づけたかった」
撮影後も、この宣誓を忘れることはなかった。
役作りが、現実のものに
それからしばらくして、初主演のオファーを受ける。タイトル名は『宣誓』だという。監督は柿崎ゆうじさんで、2025年に公開された『陽が落ちる』で共に仕事をしていた。
「因縁といいますか、感慨深いものがありました」と驚いたという。
映画『宣誓』は、震災で家族を失った前川さん演じる自衛官・春日純平三等陸尉と同じく家族を失い心を閉ざした少年・吉村和樹と出会い共に再生の道を歩むヒューマンドラマだ。
東日本大震災から15年という節目の年に当時の自衛隊の姿を見てほしいとの思いから制作された。
前川さんは、家族を失いながらも気丈に自衛隊員の一人として、災害で困っている国民を助けるという使命感を抱き活動を行いつつ、精神的なタフさと忍耐力を持った自衛官を再現した。まさに「宣誓」を体現したものとなった。一方で、自衛官も人間であり、苦悩する姿も。劇中、その思いを吐き出す瞬間は、改めて自衛官も人間だということを感じさせるものだった。

共演者の胸打つ演技
『宣誓』は、前川さんにとって初の主演作品だったが、それを支える俳優陣は実に味のある人々がそろった。
春日を見守る同僚の女性の自衛官を演じた竹島由夏さん、避難所の大御所的な存在感を放つ大地康雄さん。地元紙の記者役に徳重聡さん。避難所のボランティア職員に現在大河ドラマ『豊臣兄弟!』で森可成役出演中の水橋研二さん、その他、辰巳琢郎さん、羽場裕一さん、黄川田雅哉さんなどあらゆる作品に脇役または主役として存在感を見せる俳優陣が集ったのだ。
今回、共演者の中で印象深かったのは、徳重さんだったという。
自衛隊を含む不明者捜索の中での一コマ。幼子の遺体が発見されその近くにお地蔵さんが横たわっていた。突如、徳重さん演じる記者が、スコップを持って「お地蔵さまは、子供たちを守るのではなかったのか、何のための地蔵様なのか」と叫びながら、さまざまな気持ちがないまぜになって地蔵をたたくという迫真の演技は、周囲を圧倒した。
「あそこまで、短時間で持っていけるのか、と徳重君の演技に圧倒されました」
たとえ出演がワンシーンといえども演技者として全力を尽くす。徳重さんの演技はまさに圧巻だった。
口ずさんできた言葉
ラストではこれまで、「宣誓」を口ずさむほど何度も繰り返してきたが今度は、自衛官となった和樹を上官として聞く立場になる。
「聞く立場になって感慨深い思いがしました」
前川さんは苦笑いした。一方で和樹役の齋藤優聖さんに関しては、「さまざまな演技を見せてくれる俳優さんですね。同じ演技をしていない。必ず何かしら変化をつけてくる。将来が楽しみですね」と目を細めた。
最後に作品について「柿崎監督の思いが詰まった作品です。あの時、危険を顧みずにただひたすらに国民のために責務を全うした人たちの姿を映画を通して知っていただけたらと思います」と作品をPRした。
映画は3月6日よりシネマート新宿ほか全国公開。
(文・佐野富成、写真・森 啓造)

俳優 前川泰之(まえかわ・やすゆき) 東京都出身。モデルとして活動後、映画・テレビドラマを中心に俳優としてのキャリアを積み重ねる。映画『俺は、君のためにこそ死ににいく』『Fukushima50』『陽が落ちる』などに出演。現代劇から時代劇、社会性の強い作品、テレビドラマと幅広く、多くの作品で確かな存在感を示す。その柔軟性のある演技は高く評価されている。






