
シモーヌ・ヴェイユ(1909~43年)はユダヤ系フランス人女性思想家で、34歳という若さで没した。プラトンから大きな影響を受け、キリスト教プラトニズムの問いをほぼすべて論じ尽くしたとされる。
『重力と恩寵』その他の著作が読まれてきたが、生前には一冊も出されていなかった。没後、彼女が信頼していた人や、その存在と言葉に心打たれた人たちの手で編集・刊行され、戦後、ベストセラーになった。
ヴェイユ研究者の著者は、10代でヴェイユの思想に出会った頃、優れた伝記はあったものの、その思想を扱った著書はほとんどなかったと述べている。ヴェイユの本を読んでいくと、彼女が「わたし」ではなく「わたしのうちに宿ったもの」を見てほしいと懇願している記述に出合う。
著者は、垣間見たばかりの世の中において、その人の願いとは裏腹に像がつくり上げられるのを見て、書き手の願いに沿った読み方をすることこそ、あるべき姿ではないかと考えた。
ヴェイユが自分の思想を「純金の預かりもの」と呼んだのに倣って、著者は「原石の詰まった貴重な宝石箱」と呼ぶ。その原石が光彩を放つには、それを手にした人がその人ならではのやり方で磨き上げる必要があると考えた。
執筆依頼を受けて17年、書き始めて5年の歳月をかけて、やっと完成したのが本書だ。ヒントとなったのが西田幾多郎の『善の研究』である。論理化、概念化を阻むヴェイユの思想を、西田の概念と照らして考察し、「純粋さとは穢(けが)れをじっと見つめる注意力である」をはじめとする10の面を持つ多面体として構成した。
この章のテーマは純粋さだが、ヴェイユの言葉を敷衍(ふえん)する手法で論を展開する。著者は敷衍の材料として小津安二郎作品をはじめ親しんできた映画を用いる。
映画とヴェイユの言葉を組み合わせることで、二つの世界が共鳴し、言葉の意味がより明瞭となる。
増子耕一







