トップ文化書評『日本の森林に新しい命を―山村に住む森林学者からの提言―』 岩井 吉彌 著 EUの「条件不利地域」に相当 【書評】

『日本の森林に新しい命を―山村に住む森林学者からの提言―』 岩井 吉彌 著 EUの「条件不利地域」に相当 【書評】

大垣書店 定価1650円
大垣書店 定価1650円

 誰が言ったのだろうか、日本は「木の文化の国」であると。なんとなくホッとさせるネーミングである。事実、木造建築に関して、世界一古いのは法隆寺、世界で最大規模なのは東大寺の大仏殿、世界で最も高い木造建築は東寺の五重塔である。

 日本の国土の67%を森林が占め、森林率はフィンランドに次ぐ世界第2位である。しかし、現在の日本の森林は、伐採後に再造林されているのは30%にすぎず、残りは裸山のまま放置されている。その裸山が、手っ取り早く悪質な土木業者に買い取られることもある。

 2021年7月、熱海市伊豆山(いずさん)地区で大規模な土石流事件が発生した。タダ同然で買い取った伐採跡地に捨てられた大量の建設残土が土石流を引き起こし、28名の死者と136軒の家屋の崩壊という被害を出した。これは紛れもなく林業放棄によって惹起(じゃっき)された人為的災害である。また25年2月には、岩手県大船渡で甚大な森林火災が発生した。これはもちろん異常な空気乾燥が引き金であったが、森林の手入れ不足が延焼を拡大させたのだった。

 現在、日本の木材需要量の60%が海外からの輸入であり、国産材の比率は40%であるが、実際にこの2倍近くの潜在供給力があるといわれている。

 本書は、何代も続く由緒ある京都の北山台杉の篤林家であり、京都大学農学部林学科教授でもあった著者が、衰弱した日本の森林の再生を提言するものである。

 国際的に見て日本の林業は、EUの「条件不利地域」の概念に相当する。

 それは明らかに「森づくり」や「伐採・搬出・輸送」にかかる費用が高過ぎるためである。EUの条件不利地域農業の所得補償制度に倣って、日本の林業に補償的な方策を講ずるのは決して不自然ではない。

 これで日本の森林を再生させ、以下のような目標を立て、邁進(まいしん)すべきである。

 ①国内の災害防止と水源確保により、社会と国民生活を支える

 ②二酸化炭素回収機能を十分に発揮する

 ③日本の森林伐採量を増やし、世界の森林面積の縮小を防止する

 ④中山間地域を維持し、わが国の社会基盤を安定させる

 これらの目標は、日本林業の起死回生の作戦提案といえる

法政大学名誉教授  川成 洋 

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »