トップ文化書評『中国に奪われた祖国チベット』 ペマ・ギャルポ著 チベットの悲劇を繰り返すな 【書評】

『中国に奪われた祖国チベット』 ペマ・ギャルポ著 チベットの悲劇を繰り返すな 【書評】

ハート出版 定価1430円
ハート出版 定価1430円

 7月2日、国連本部前でチベット人の男性が焼身自殺をした。中国で「民族団結進歩促進法」が施行され、激しさを増す弾圧への抗議と、自由を剥奪された民族の悲痛な叫びを訴える行為だった。

 本書は、中国によるチベット支配の悲劇を教訓に、失われた日本の良き文化・伝統の回復を訴える一冊だ。

 それぞれのテーマに関する書物は他にもあるが、本書はチベット問題から日本社会の在り方を論じた点に特色がある。

 著者は1960年代、12歳の時にチベット難民として来日した。以来60年以上、日本で暮らしてきた。中国のチベット侵略を踏まえ、「ここ日本では、絶対に同様の悲劇が起きてほしくはない」と願う。当事者としての経験を基にした提言だからこそ、他とは一線を画す説得力を持つ。そして、中国が覇権主義を強める中、日本国民や政治家に意識改革を求めている。

 憲法9条に自衛隊を明記するだけでなく、「自分の国は自分で守る」という意識を持たなければ、本当の意味で強い国になれないと警鐘を鳴らす。伝統的価値観や「自国を守る」意識の喪失と、チベットの悲劇。本書の核心は、二つの事象を結び付け、日本人の倫理観・道徳観を論じている点にある。

 国を守るために、国民全体の幸福を優先する「利他の心」を取り戻してほしいというのが著者の一貫した思いである。

 「自分さえ幸せならそれでいい」という風潮がはびこる中、その「幸福」は本当に自分だけの力で手に入れたものか。本書は人々の生き方を問い直しており、個人主義的傾向の現代社会において意義のある視点といえる。

 チベット仏教において、自殺は禁忌(きんき)である。それでもチベット人の焼身自殺が続くのは、自らの命を犠牲にしてでも守らなければならないものがあると訴えているからだ。自分の国や尊厳、アイデンティティーを守る覚悟とは何か。チベット問題だけでなく、日本人の国家観や公共心、国防意識を考える上でも有益な一冊だ。

岩田弘国

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