トップ文化書評『ヴィヴァルディと私』 ティツィアーノ・スカルパ著 中山 エツコ訳 女性たちの命でできた協奏曲 【書評】

『ヴィヴァルディと私』 ティツィアーノ・スカルパ著 中山 エツコ訳 女性たちの命でできた協奏曲 【書評】

河出書房新社 定価2420円
河出書房新社 定価2420円

 この小説はイタリア最高の文学賞であるストレーガ賞を受賞した作品で、映画化され今年5月、日本でも公開された。

 18世紀のヴェネツィアにあるピエタ養育院が舞台で、ここでは親に捨てられた少女たちが尼僧の手で育てられ、教育されている。仕事を覚えて嫁いでゆく者もいるが、才能のある少女らは音楽を教えられ、彼女らによって構成される楽団は優れた演奏で知られていた。

 この小説の主人公はヴァイオリン演奏家の一人で、両親を知らない。誰かが赤子の主人公を養育院に置いていき、主人公はここで育てられた。

 拾われた日の記録が残っていて、「四月二十一日。緑色の上着を着衣」とあり、洗礼が施され、「チチェリアと命名」。今年16歳の誕生日を迎えた。

 小説は独白形式で書かれ、深夜、寝床を抜け出して部屋を出て、階段を上って最上階に来て、見知らぬ母親に宛てて手紙を綴(つづ)る。その内容は生の秘密を巡るもので、幻想的で不気味でグロテスクでさえある。

 当時のヴェネツィアでは不倫や売春、捨て子が多く、犠牲者は女たちだった。

 音楽を指導する司祭が交代し、新しくアントニオ神父が赴任してきた。前任者の曲は単調で面白みに欠けたが、アントニオ神父の曲は異なり、指導ぶりも新鮮で鮮やかだった。

 協奏曲は3楽章構成で、陽気さ、物憂さ、幸せいっぱいの快活さが現れてくる。

 「まったくこの人は、わたしたちの体から女性らしい音を引き出しては、男たちが望むような女性の音楽版を、わたしたちを音に置き換えたものを、毛がもじゃもじゃ生えた、年老いた男たちの耳に差し出すのです」

 作者はヴィヴァルディの音楽の中に、少女たちの生命を聴き取ってきたのだ。この音楽は女性でできていて、彼女たちは空気の中に香料の利いたその匂いをまき散らす。

 「四季」が生まれる過程における、団員らの自然との交流のドラマが語られ、チチェリアは心を外界へと向ける。物語も陰と陽の対比が効果的だ。

  増子耕一

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