
本書はアメリカの宗教について論じた本ではなく、アメリカという国それ自体が、西洋文明から受け継いだ「ユダヤ―キリスト教」的世界の上に成り立っている、ということを示した本である。
米国を論じるに当たって宗教は極めて重要だが、ほとんど語られることがない。
「宗教は、アメリカを観(み)るさいに大きな盲点になっている」と著者は言う。すべての州憲法に「神」がうたわれているが、専門家もこんなことを問題にはしない。
この見えにくかった宗教を捉えるための枠組みを著者は提示する。
米国では、1990年代から「無宗教」の人々が増え始め、2020年には36%になるという。無宗教とは「宗教を信じない」のではなく、「無所属」の意味。彼らは所属する教会がないが、神やスピリチュアルなフォースを信じ、礼拝にも参加する。無神論者は3~5%。
70年代からの変化は三つあった。教派の伝統的な組織宗教への関わりが薄くなったこと。経典に書かれた「神」ではなく「宗教的なもの」を信じる者が増えたこと。保守的なグループのまとまり「福音派」が存在感を増していること。
米国の起源神話はピルグリム・ファーザーズの物語がよく知られているが、もう一つあり、その10年後、1630年に新大陸にやって来た非分離派のピューリタンによるもの。富も地位もあり国王から特許状を得て「マサチューセッツ湾会社」を設立した。
彼らは新大陸を約束の地として、「旧約聖書の神」と「イスラエルの民」の契約をなぞった。マタイ福音書で言及された「丘の上の町」を成すべく、牧師養成の学校としてつくったのが「ハーヴァード」だった。
独立革命、奴隷解放運動、全体主義との闘い、共和党と民主党、起業家精神など、「ユダヤ―キリスト教」的な文脈から米国の歴史を論じていく。どうしてこのような本が書かれてこなかったのか、奇妙な日本。
(増子耕一)





