
2024年にノーベル文学賞を受賞した著者は、これを機に所感を求められ、過去の仕事を振り返る機会が与えられた。詩とエッセーを収めた本書は、受賞後初の作品集。詩人として、作家として、抱いてきた主題が語られ、それらの主題は韓国をはじめ現代世界の多くの人々が共有しているもので、確かにノーベル賞に値する作家だったと実感される。
彼女の文章は、新聞記事のそれとは異なり、言葉一つ一つに宇宙が宿されている。作品が生まれるまでに費やされた時間も想像すらできない。
「光と糸」はノーベル文学賞記念講演の全文で、『菜食主義者』から『別れを告げない』に至るまで、代表的な五つの長編について追求してきた問いを語っている。一作ごとに問いの内容は異なるが、次作につながり、全体で一つのプロセスを構成している。
小説を書くたびに作者は変形した。書き始めた時とは同じ人間ではなくなり、そしてそこから次の問いに出発する。
光州事件を題材にした『少年は来る』を書いていた時、なぜ人間はこれほど暴力的なのか、なぜそれに立ち向かうことができるのか、を問い、残酷さと尊厳さの間で両者を結ぶ道に進むためには、死者たちの助けが必要だと痛感する。
だからこう問う。
「現在が過去を助けることはできるのか?」
「生者が死者を救うことはできるのか?」
読者に投げ掛けた問いでもあった。それは不可能なことだと分かっているが、心が納得しない。
こうした一連の作業の出発点は、8歳の時に書いた詩にあった。
「愛ってどこにあるのかな?/とくとく鳴っている私の胸の中だよね。」「愛って何なのかな?/私たちの胸と胸をつないでくれる金の糸だよね。」
作者はこの金の糸を探し続けてきたのだ。受賞で少しほっとしたのか、新しく買った家で、新たに作った花壇での植物観察日記を綴(つづ)り始めた。
ここにも一つの宇宙がある。
(増子耕一)





