
「ある時代の真の性格は、その時代がどんなに偽装しようとも、その建築を通じて明らかにされる。…建築をみればそれが生み出された時代の性格が、たちどころに判る」
本書の「はじめに」に引用されたスイスの建築史家ジークフリート・ギーディオンの言葉だ。
その歴史的な建築のイラストをふんだんに載せて、イギリスの歴史をたどっている。
例えば、ロンドンのランドマーク、時計塔「ビッグ・ベン」のある国会議事堂「ウェストミンスター宮殿」は19世紀の火災の後、今のゴシック・リバイバル様式に再建された。チャールズ・バリーと共に建設に当たったオーガスタス・ピュージンは、「建築を中世の姿で建てるのは道徳的義務」とまで言う建築家だった。
ウェストミンスター宮殿再建は、やがて到来するビクトリア朝の空気を象徴する事業だったことが分かる。再建の翌1871年には、プロムナード・コンサートで有名なロイヤル・アルバート・ホールも落成している。
ロンドン西部にあるチズィック・ハウスは、一般にはそれほど有名ではないが、英国精神の重要な一面を物語る建築だ。1720年にバーリントン伯爵が建てた別荘で、後期ルネッサンスの建築家アンドレア・パラーディオの様式を取り入れたものだ。
当時、英国上流階級の青年たちはヨーロッパ大陸を周遊旅行するグランドツアーで古代ローマ時代の別荘ヴィラの流れを汲(く)むパラーディオの建築に魅了された。
これは英国の全盛期をつくった人々がどんな教養をベースにしていたかを物語るエピソードと言えまいか。観光客も多く訪れる近衛(このえ)騎兵隊の兵舎「ホース・ガーズ」もパラーディオ様式であることを本書で初めて知った。
欧州を旅行すると、さまざまな建築物に出合う。建築そのものを見て楽しむのもいいが、そこから歴史を感じ取ることができればなお楽しく有益だろう。
藤野俊之
(エクスナレッジ 定価2420円)





