
75年ほど前、私は札幌の小学生高学年だった。夏休みに銭函(ぜにばこ)海水浴場に汽車に乗って行った。海水浴期間は10日くらい。だから海水浴場は混み合っていた。ところが、銭函の沖合には何艘(そう)か黒い戦艦がその雄姿を現した。すると「海に入らないように」と警告のアナウンスが流れ、これで海水浴はオシマイになった。
北方領土の問題の「原点」は、1945年8月、スターリンが当時有効だった日ソ中立条約を破棄して満洲、南樺太(からふと)への全面的軍事侵攻を発動し、日本の無条件降伏後に、千島列島と北方四島を占領した。このためには、同年2月、スターリンが連合国の2名の首脳を迎えてヤルタ会談を開催し、戦後体制の枠組み、枢軸国側の戦後処理などを巡る重大な会議に初参加したのだった。しかもその会議直後、ソ連の対日戦とその条件として南樺太返還と千島列島引き渡しの「秘密協定」が対日戦で苦慮中のローズベルトに了承されたのだった。
1855年に締結した日露和親条約で最初の国境が画定されて以来、敗戦まで一貫して四島を領有してきた「固有の領土」論は歴史的に正当であり、ソ連の「不法占拠」に国際法的根拠は全く存在しない。
しかるに、敗戦直後から今までの日本政府は信じられないほどの弱腰。あまつさえ「二島返還論」が飛び出し、衆議院本会議の担当の女性大臣が壇上で、「四島」の名前を読めなかったという茶番を露呈したりで、これではソ連側が日本側を舐(な)めるのも当然。
そうこうしているうちに、2020年、ロシア憲法が改正され、「プーチン憲法」と呼ばれ、その中に「領土割譲の禁止」条項が盛り込まれている。そのターゲットは、ウクライナ半島のクリミア半島と北方四島であろう。日本の戦後直後から始まった北方領土交渉にとって、さらに長く厳しい停滞の時代の到来でないことを切に祈りたい。
法政大学名誉教授 川成 洋
明石書店 定価2640円






