
国際政治学者として有名な米国シカゴ大学のジョン・J・ミアシャイマー氏は「現実主義(リアリズム)」、その中でも特に「攻撃的現実主義(オフェンシブ・リアリズム)」の論客として知られるが、この本はその視点から「リベラルな覇権」という外交政策を痛烈に批判した一冊だ。
ミアシャイマー氏は、冷戦終結後の米国が追求した「世界中に民主主義を広め、自由貿易を促進し、国際機関を強化すれば平和が訪れる」という方針を「大いなる妄想」と呼ぶ。彼は、この政策が結果として失敗し、世界をより不安定にしたと断ずる。
ミアシャイマー氏の主張は一貫している。彼は、国際政治の本質を「リベラリズム」ではなく「ナショナリズム」と「リアリズム」の観点から理解すべきだと説く。本書の核心は、リベラルな覇権主義が必然的に失敗する構造を指摘した点だ。リベラリズムは個人の権利や普遍的な価値を重んじるが、現実の世界において人間が最も強く帰属意識を抱くのは「国民国家」という枠組みである。他国をリベラルな価値観で再編しようとする試みは、現地のナショナリズムによる激しい抵抗を招き、結果として泥沼の戦争や混乱を招く。イラク戦争やアフガニスタンでの失敗がその典型例だ。
平和を望むのであれば、普遍的な善を説くことよりも、国家間の力の均衡という「現実」を直視せねばならない。中国の台頭に対しても「リベラルな関与」で民主化を期待したのは間違いであり、封じ込めに専念すべきだったという主張にも説得力がある。メディアが作り上げた「自由と民主主義の勝利」という心地よい物語(ナラティブ)を、パワー・ポリティクスという冷徹な視点で見事に解体してみせた本書は、現在の混迷する国際情勢を読み解くための一つの大きなヒントとなるだろう。
長野康彦
(経営科学出版)定価3630円






