トップ文化書評小泉八雲「見えない日本」を見た人 畑中 章宏著【書評】

小泉八雲「見えない日本」を見た人 畑中 章宏著【書評】

光文社新書 定価990円
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 ラフカディオ・ハーンの来日は明治23年で、29年に帰化して小泉八雲と名乗り、『怪談』などを著して37年に54歳で没した。

 この時代、日本は西洋近代化を目指し、哲学者の井上円了は「妖怪学」を掲げ、迷信退治に邁進(まいしん)していた。ハーンが帰化を決意したのは、「目には見えない日本の観察者となることを目論んだから」と著者は述べる。

 見えない日本とは、お化けや妖怪、霊魂に限らず、振る舞いや習わし、神仏の祭り、動物や昆虫、草花が語る言葉、さらに衣服の着方や住まい方、食べ方、死に方、死者への対し方も含まれている。

 英訳の『古事記』に引かれ日本に来たハーンは、人々の暮らしに接し、日本は死者と共に生きる国だと思うようになる。それは柳田國男に始まる日本民俗学の先駆けだった。

 ハーンの感性は、霊的な資質の上にキリスト教以前の自然信仰、精霊信仰が息づくケルト系とギリシャ系の両親から生まれ、アイルランド人の乳母(うば)から民間伝承を寝物語に聞いたことで培われた。少年時代、家にすみ着いている幽霊や精霊が見え、それらへの恐怖が記憶に刻み込まれたという。怖い話はいつまでも忘れない。だから、妻セツの怪談に耳を傾けたのだ。

 著者は、ハーンと柳田の共通点は死者への関心の強さだという。盆踊りについて柳田は「亡魂を送るために催される」と、ハーンは「何か太古のもの、この東洋の歴史が記録に残される以前からのもの、もしかしたら、薄明の神代の時代から存在したものを目にしているのではないだろうか」と書いている。

 盆踊りは各地で異なるが、共通しているのは死者と生者が共に踊ること。柳田は「仏教以前からの亡霊祭却の古式」と述べる。亡霊祭却は神道の死者祭りで、そこに中国で儒教と習合した仏教が渡来し、融合して日本人の信仰の根幹となったのである。

 (多田則明)

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