トップ文化書評体験からの同時代史的言葉『言葉の風~人にも動物にも愛の風を~』【書評】

体験からの同時代史的言葉『言葉の風~人にも動物にも愛の風を~』【書評】

アユ総研叢書、定価1320円
アユ総研叢書、定価1320円

 最近、日刊紙の「読者発言欄」などに80代後半くらいの方たちの「発言」が目立っている。管見だが、男性の場合、80歳という年齢は大きい人生の峠のようである。事実、私の身近な体験であるが、コロナ禍もあってか、残念ながらこの年齢でかなりの友人が身まかったのだった。だから、その80歳の峠を無事越え、80代後半を迎えた方たちが「今こそ」と気合を入れて発言しているようだ。

 そのテーマは、彼らが否応なしに体験させられた、激動の「昭和前期(昭和元~20年8月まで)」である。彼らの「同時代史」である「昭和前期」が急速に、しかも理不尽にも曖昧なままに薄れていく。確かにわが国の文化的規範や社会的慣習とあまりにも異なっていた「昭和初期」の内実を後世の人たちに訴えておきたいのだろう。

 本書の書き出しの「86年の私の人生の中で、もっとも最初に心を動かされた今でも耳に残っているのは、『ああ よかったああ 助かったのね』という母の言葉である」は、4歳の著者が、疎開先の鵠沼(くげぬま)海岸を歩いているうち、B29が飛行してきて、後ろから彼女を押し倒した母の言葉だった。幸いにもB29が違う方向に飛んで行った。

 敗戦後、通った小学校はカトリックのパリ・ミッション系修道院の小学校だった。そこでは最上級生と最下級生が手をつないで聖堂に行った。最下級生の著者が最上級生の正田美智子さん(現・上皇后陛下)と手をつなぐことがたびたびあった。彼女が時々転んだりしたが、その度に身をかがめて「大丈夫?」と聞いてくださったという。

 夫の転勤で広島に住んでいたが、生け花の先生の悲しい広島体験談。40年ほど前に読んだウクライナ民話の絵本『てぶくろ』(福音館書店刊)の「ここで一緒に暮らそうよ」という動物たちの言葉が印象的、ぜひ一読を。その他、著者のもろもろの体験から生まれた「同時代史的」な言葉、われわれも心に刻んでおきたいものである。

(法政大学名誉教授 川成 洋)

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