トップ文化書評【書評】「田沼意次の時代」大石 慎三郎著 悪評覆し「優れた財政家」に

【書評】「田沼意次の時代」大石 慎三郎著 悪評覆し「優れた財政家」に

(講談社学術文庫 定価1320円)
(講談社学術文庫 定価1320円)

 田沼意次は日本史の中の三大悪人の一人とされ、賄賂によって政治を左右する最悪の政治家として評価されてきた。他の二人、弓削道鏡(ゆげのどうきょう)と足利尊氏は、敗戦で皇国史観が消えたことで評価が変わったが、田沼意次についてはそのまま。

 田沼の評価を変えたのは、江戸時代の社会経済史を専門とする著者だった。

 本書の原本は1991年に岩波書店から刊行され、2001年に岩波現代文庫に収められたが、今回、再刊されることに。専門家の手になる記念碑的な論考なのだ。

 田沼の評価のおかしさに著者が気付いたのは昭和30年代。根拠とした原本に当たってみると、『甲子夜話』や『伊達家文書』などすべての「悪評」は史実としては使えないと結論。

 また相良藩領主としての税制を知ろうと現地を訪ね、土地関係の史料を探したが期待するものには出合えなかった。

 幕政の根本史料「撰要類集」に当たってみたが田沼の所だけが空白。意図された湮滅(いんめつ)と著者は思う。

 そこで探求したのは、この時代の幕府の権力構造の変化と田沼の位置であり、彼が打ち出した財政はじめ一連の政策と、社会状況だった。

 江戸時代は身分制社会で、家格の高い者ほど上位の役職に就く仕組みだった。が、上位家格ほど人材に乏しく、社会経済の変化で幕府が財政に苦しむようになると、下僚にも才能ある者に道が開かれるようになる。

 田沼の人事を見て著者は言う。

 「田沼政治は下級士族たちの政治である」

 田沼政治の特徴は「日本社会の一元化を図ったこと」。西国と東国で銀と金に経済圏が分かれていたのを、田沼は一本化しようとして成功しつつあったが、次の政権につぶされた。それらの政策は明治政権に引き継がれていく。

 田沼時代とは「日本の改革と保守が激闘した、江戸時代では最も面白い時代」であり、意次を「遺書」から「優れた財政家」「誠実一筋」の人間と明かすのだ。

増子耕一(講談社学術文庫 定価1320円)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »