
日本語は「孤立言語」である。つまり、日本語の起源やその系統も十分に解明されていない。
かつて、日本語研究の黎明(れいめい)期から言われていたのはアルタイ説、つまりモンゴル語、テュルク語、ツングース語などを含むアルタイ語説だったが、国語学者の大野晋が発表したのは、南インドのドラヴィダ語族の一種である古代タミル語説であったが、それをレオールタミル語説に訂正した。いずれの諸説も仮説での発表であり、定説と言い難いのが現状である。
本書は、実際に確認できる資料に基づいて日本語の単語や表現がどのような歴史を辿(たど)ってきたかを解説している。本書に収録されている「身近な日本語の起源」は、自然、空間・時間、親族、人体、衣・食、住、道具、魚介類、動物、鳥、虫、植物、色彩、形容詞の13分野、279項目である。各項目は、「用法」「語の由来」の二つの側面から説明しているが、「語の由来」は可能な限りエビデンスとして、文献、その引用文を挙げている。
私が興味を持ったのは、人間が生涯接触することになる親族に関する単語と表記である。
さて、「兄」の語源はいかに。本書によると、古くは、年長を意味する「え」が「兄・姉」を、年下を意味する「おと」が「弟・妹」を表していた『日本書紀』。
その後「いも」が女の兄弟を表すのに対し、「せ」は男の兄弟を表していた『万葉集』。また「姉」は、年長を意味する「え」が表していた『古事記』。さらに『古今和歌集』の作者名に使われ、平安時代以降、「あね」は「あに」と対になって使われ、現代に至っている。
古くは「はらがら」が「兄弟姉妹」を表した、語源は「はら(腹)」に「やから(族)」の「から」が付いたもので、本来同一の母の兄弟姉妹を指していたが、後に一般的に兄弟姉妹を指すようになった『続日本書紀』。
このように出典と引用カ所を明示した記述は実にスリリングである。
評論家 阿久根利具
(丸善出版、定価4400円)






