
人間の赤ちゃんは他の動物に比べて長期間、親に依存している。これまで無力で未熟な存在と考えられてきたが、最近の研究では、数の認識から善悪の判断に至るまで、驚くべき能力が備わっていることが明らかになっている。
赤ちゃんの研究はそれに関わる人のためだけに行われているのではない。人間の本質的な能力を探ることでもあり、世界各国で科学的な研究が行われている。著者はNTTコミュニケーション科学基礎研究所の「赤ちゃん研究チーム」に所属していて、未来の技術開発につなげるためだ。そして執筆中は2人の女児の育児の最中だった。
赤ちゃんの能力を明らかにしていったのは、実験室の統制された環境での巧妙に設計された実験によるもの。その能力がどのように発達していくかも解明している。
赤ちゃんは生まれた時から社会的認知能力を持っていて、他者の顔、表情、視線、動きなどを認識している。新生児は視力が極めて低いが、顔に対する感受性は特別。
6カ月の赤ちゃんはサルの顔も区別できる。サルの顔は日常的に見る機会がないので、1歳頃には識別できなくなるが、9カ月まで日常的に見る経験を積むとその能力は維持される。
どれだけ学びたいと願っているのか。著者は「顔が好き」「真似をする」「一緒に見たい」「方言が好き」と項目ごとに詳述していく。
驚くべき内容は道徳的なことに関する研究だ。長い間、赤ちゃんは自己中心的で、道徳性はないと考えられてきたが、最近の発達心理学は道徳性の萌芽を持っていることを明らかにしている。
1歳10カ月児を対象とした実験では、赤ちゃんがお菓子を受け取る時、喜びの表情を見せるが、それ以上に、他者にお菓子を与える時の方が大きな喜びを感じていることが示されたという。赤ちゃんは利他的で、学習の天才。人間とは何か、新しい知見を提示している。
増子耕一
光文社 定価1012円






