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『死が怖い人へ』 久坂部 羊著 人生が面白いと死を忘れる 【書評】

SB新書 定価1045円
SB新書 定価1045円

子供のころ死が怖かった著者は、医者になって多くの死を看取(みと)り、次第に怖くなくなったという。

怖いのは自分が「無」になるからで、評者も小6で同じ恐怖感にとらわれたが、1週間ほどで考えても仕方のないことはやめようと思い、回復した。その時分かったのは、悩む自分を見ているもう一人の自分がいること。死を含め自分を客観視するのが恐怖からの解放につながる。「メメント・モリ」(死を想(おも)え)である。

人間は死に向かう存在だとしたのはハイデガーで、確かに死を思うことは生を充実させる。よく生きるために注力すれば、自然と死への恐怖は去っていく。自分が消えても社会は生き続けており、自分の代わりは誰かがする。命のバトンタッチをすればいいと思うと、死も自然現象の一つに思える。

高齢になり医者通いが増えると、自分の体も多くの部品の寄せ集めで、年齢に従い劣化するものだと分かる。生物としての人間の寿命は50年で、子供を生み育てると肉体の役割は終わり、以後は手入れしながらの余生となる。

70代半ばの評者の実感は、人生が面白いのはそれからで、家族から解放され、好きなことができる。知的、文化的作業に集中できるからだ。

すると、死の恐怖も忘れてしまう。そのためには中年期からの健康維持が大事になる。人生100年時代も健康でないと意味がない。

上手な死に方は、余計な治療を受けず、自宅で訪問看護を受けながら、自然な死を迎えること。下手な死はその逆で、近年、自宅死が増えているという。幸福な死を迎えるには、欲望を抑え、あるがままを受け入れること。

仏教の言う「知足」で、著者の父は腰椎の圧迫骨折で寝たきりになりながら、「いい人生やった」とほほ笑んで最期を迎えたという。

多田則明

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