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『江戸東京 庶民信仰事典』 川副秀樹編著 身近な神仏融合の宗教史 【書評】

『江戸東京 庶民信仰事典』 川副秀樹編著  国書刊行会 定価4950円

日本は縄文時代からのアニミズム的な庶民信仰が残っていて、土地の神信仰に親和的な仏教が広がった。それは、キリスト教が世界に広がった事情と比べて明らかだ。同時に、神信仰を吸収して仏教も変容した。「草木国土悉皆(しっかい)成仏(じょうぶつ)」の平安密教はインドや中国にはない思想で、哲学者の梅原猛は日本ならではの生命哲学と高く評価している。

もう一つは日本人の現世利益的な信仰で、これを社会学者の見田宗介(むねすけ)は「原恩主義」と名付けた。キリスト教の「原罪主義」に対する言葉で、自然や先祖への感謝からすべてが始まっている。そうした風土で仏教は釈迦(しゃか)の理想を実現したとも言えよう。

吉田一彦名古屋市立大学特任教授によると、神仏習合ならぬ神仏融合は日本の特殊現象ではなく東アジア各国に見られ、取り立てて「習合」などと言わないほど当たり前になっているという。そうした視点からの宗教比較研究が進めば、一神教がもたらす対立と分断の世界とは違う世界が開かれてくるのではないか。日本の宗教学者に課せられた大きな役割と言えよう。

上記は本書を読みながら感じたことで、「事典」の名のごとく、約500もの庶民信仰が、写真と地図付きで紹介されている。5年かけて取材した著者が、後進のために残したデータ集で、索引や地域別の分類など実に丁寧なのに感心する。

大河ドラマ「べらぼう」の初回で、大火の吉原を蔦屋重三郎が背負って逃げたお稲荷さんも庶民信仰の代表。キツネは豊穣(ほうじょう)をもたらすとして、ヘビは水の守りとして、動物が神とされていた。ヘビは中国の龍と融合し、八大龍王として各地の水源地などに祀(まつ)られている。

仏教由来のお地蔵さんも、最も身近な仏教として町内各所に設けられ、子供の守り神としてあがめられ親しまれてきた。まさに神仏融合の庶民信仰である。

多田則明

国書刊行会 定価4950円

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