トップ文化書評『持続可能なメディア』下山進著 技術軽視の傾向を指摘【書評】

『持続可能なメディア』下山進著 技術軽視の傾向を指摘【書評】

「持続可能」とは「生存」のこと。「平和」というイデオロギーを叫ぶだけで民間企業であるメディアが存続することはない。名著『2050年のメディア』(文春文庫)の著者のコラムをまとめたのがこの新書だ。

「メディア論は技術革新による変化に無自覚」という指摘には納得だ。「内容が全て」という側面だけが強調されて、技術が軽視される傾向は今後が厳しい。

1000万部を誇っていた「読売新聞」も、2024年段階で600万部に落ち込んでいる。NHKの事業収入は6440億円(2023年度)。「読売新聞」は巨人軍も含めて2720億円。NHKの受信料は放送法で支払いが義務付けられている。

著者の見通しでは、「全国紙で残るのは日本経済新聞と一般紙一紙」となっている。いつの時点での話かは不明だが、遠い話ではなさそうだ。

「サツ回りこそ新聞記者」という発想は古い、と著者は言う。地方支局で夜回り取材をやっているのは「読売新聞」とNHKぐらい。「日本経済新聞」では夜10時の編集局には人がいない。「夜討ち、朝駆け」を廃止したためだ。

著者が地方紙の編集局を取材すると、ファクスの音がする。欧米では、10年も前からファクスはなくなっている。

地方紙もいろいろだ。秋田魁(さきがけ)新報は、若い世代が秋田県を離れて行く実態を報道した。2020年に秋田県で生まれた赤ちゃんは4500人。1950年に比べて9割も出産が減った。

秋田では、20代女性の減少率が日本最高。同県の「女性に関する生き方」に対する寛容度も全国最下位。新聞社でも、「女はどうせ辞める」と冷たい。県内に限定したその種の現実をあぶり出したことに、著者は独自性を見ている。

それにしても、「新聞社の幹部は5年後を考えることが苦手」という言葉は重い。

文芸評論家・菊田 均

朝日新書 定価1045円

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