
明治維新とは何だったのか。著者はさまざまな地方に目を向け、維新との関わりを調べるとともに時の中で見方が変容していく様子も示していく。
維新は大政奉還、王政復古、戊辰戦争、廃藩置県と進んでいった。だが、そこには対立と闘争があり、「勝者」と「敗者」とに分かれていく。
維新政府は「王政復古」で落命した「殉難者」を慰霊し、「功労者」としてたたえたが、各藩の関わり方はさまざま。維新観もまちまちだった。
歴史家の大久保利謙(としあき)はそれを類型化してみせた。幕府の廃絶と新政権の成立を合理化して強調したのが「王政復古史観」だ。そのほか薩摩・長州など藩閥による「藩閥史観」があり、旧幕府側の人々による「旧藩史観」があり、さらには歴史家の田中彰が分析して見せた「佐幕派の維新観」があった。
これら維新の多様な物語が顕在化するのは1880年代後半。89年に大赦令が出されて「朝敵」が許され、慰霊と検証が可能となり、「わが郷土」の歴史が語られ始めた。
朝敵とされた新選組の近藤勇と土方歳三の事績もたたえられ、88年に顕彰碑が高幡不動尊に建立。89年には旧大名諸家による「史談会」が結成され、それぞれの藩による維新の物語が語られていく。
著者はそれら「歴史」の担い手を各地に訪ねて調べ、政府との関わりや、彼らの思惑を検討する。だが時の作用の中で史観は変化し、経済と絡んで観光資源になっていく。ここで紹介されるのは長州征伐(四境の役)の舞台となった周防大島での戦い、飯能戦争、秋田大館の戊辰戦争、旧佐倉藩主堀田家と「開国」など、郷土の歴史だ。
地域の歴史が前面に現れたのは2018年で、政府によって「明治150年」記念事業が開催された。自治体でも記念イベントが開かれたが、会津では多大な犠牲を払った「戊辰150年」と位置付けられた。政府と地域の絡みが興味深い。
増子耕一
中公新書 定価1034円