トップ文化書評『田んぼのまん中のポツンと神社』 えぬびい写真・文 圃場整備が生んだ日本的風景【書評】

『田んぼのまん中のポツンと神社』 えぬびい写真・文 圃場整備が生んだ日本的風景【書評】

『田んぼのまん中のポツンと神社』 えぬびい写真・文  飛鳥新社 定価2420円

田舎を旅すると、田んぼの中にポツンと立つ小さな神社をよく見かける。郷愁を感じさせる日本的風景の一つだ。廃虚や電話ボックス、秘境など各地の不思議な場所を取材している著者が、そんな神社を集めた写真集。関東から東北が多いのは水田開発の歴史による。

評者が住む地域にも「地神(じじん)さん」という祠(ほこら)があり、春と秋に農業関係者がお祭りをしている。圃場(ほじょう)整備のたびに移動し、今は道路脇の畑の一角にある。本書のように田んぼの中に残らなかったのは、親たちの世代が大型機械による農作業の効率化を優先したからだろう。

弥生時代からの水田は、山すそなど灌漑(かんがい)が容易な土地に広がった。平地に広がったのは土木技術が向上したからで、それでも洪水に見舞われるような低地は避けられた。山間地に造られたのは戦国時代、山城を築いた領主たちが貨幣代わりの米を増産するため。戦のない江戸時代になると、家康の河川工事のように発達した技術で広い湿地も農地に変わり、各地に守り神の神社が建てられた。

田んぼの多くは人と牛馬で耕作可能な1反=10㌃(100㎡)以下だったが、それを一変させたのが1963年からの圃場整備。田んぼの中の神社は障害物だったが、農民の信仰で多くが残された。国の予算が投じられたが自己負担もあり、評者の父は有利な田んぼを得ようとする農家の利害調整に苦労していた。大規模な新田開発は東日本が多く、既に開発が進んでいた西日本では干拓が中心だった。

多いのは農業神の稲荷社だが、地蔵尊もある。特定の土地や氏族の守り神だった古来の神々が全国に広がるのは、仏教との融合で普遍性を獲得したから。

熊野社や八幡社もあり、地域の人たちが頼りがいのある神を招いたのである。小さな神社にも日本の宗教と農業の歴史が秘められている。

多田則明

飛鳥新社 定価2420円

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