トップ文化書評『潤日』舛友雄大著 形成される中国人コミュニティー【書評】

『潤日』舛友雄大著 形成される中国人コミュニティー【書評】

『潤日』舛友雄大著  東洋経済新報社 定価1980円

日本語ができないにもかかわらず、中国のアッパーミドル層を中心に日本へ居住希望の人々が増加している。友人の死をきっかけに、その背景にある理由や日本での中国人の暮らしぶりを著者が丹念に取材し、浮き彫りにしたのが本書だ。

本書のタイトル『潤日』を見ると何を意味しているのか疑問がまず湧くだろう。もともと潤は中国語で「もうける」という意味だが、中国語での読み方がrunとなり、英語の「run(逃げる)」と重なることから逃げるという隠語として使用されるようになった。日は日本を示しているので、本書のタイトルは「日本へ逃げる」という意味が込められている。

日本へ「潤」してくる人々と1980年代の改革開放以降に日本へ渡ってきた新華僑は性質が異なっているという。新華僑は日中の経済格差の背景から日本で生きていくことは非常に大変で必死であった。ところが、現在の日中経済規模は逆転しており、「潤日」してくる経済力のある中国の人々は他国と比較検討した上で、日本の自由で豊かな生活を享受しに来ている。そのため、他国が日本よりも魅力的になれば移住することもあるという。

富裕層や知識人を中心に昔から中国から海外へ移住する流れはあったが、決定的となったのは2018年の憲法改正やその後のゼロコロナ政策だったという。著者によると、以前は中国人リベラル派は北京に多くいたが、今や東京がその「最前線」。

本格的な華語書店が相次いで都内で開業しているのがその証左だ。副産物として、違法な地下送金が拡大し中国人御用達の会所(プライベートクラブ)も日本各地で誕生しているという。

中国人が中国語だけで生きていけるコミュニティーが日本に新たに出現し、日本経済、政治、社会に無視できない影響力を形成しつつあるのが現実だ。

宮沢玲衣

東洋経済新報社 定価1980円

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