トップ文化書評『アジア系アメリカを知るための53章』李里花編著歴史的背景と現在を描く【書評】

『アジア系アメリカを知るための53章』李里花編著歴史的背景と現在を描く【書評】

『アジア系アメリカを知るための53章』 李里花編著  明石書店 定価2200円

アメリカ合衆国の「アジア系」の人口は、現在、2400万人であり、総人口の約7・2%を占める。その最大国は中国系であり、19世紀半ばのゴールドラッシュに労働移民として大量入国する。

しかし、彼らはアジア系への蔑視の最初の標的となり、その人種差別的意識がアメリカ人に根付いていた。新型コロナウイルスの拡大とともにアジア系に対する憎悪犯罪(ヘイトクライム)や攻撃が相次ぎ、2020年3月から3年間で、1万1千件に上った。

19世紀末、中国人排斥の穴埋めとして日本人移民が求められたが、やがて欧米列強諸国と比肩する日本に対してドイツが発した「黄禍論(イエロー ペリル)」が付加され、在米日系人は激しい排日運動に翻弄(ほんろう)されたのだった。

その典型的な事例は、1941年12月7日の真珠湾攻撃。この日から数日間、FBIが西海岸の日本人諸団体の指導者を拘束した。42年2月、大統領令9066号によって、理不尽にも約12万5千人の日系人が「敵性外国人」として強制収容所に拘置された。ここで銘記したいのは、彼らの汗の結晶である不動産や財産等は悉(ことごと)くアメリカ人に掠奪(りゃくだつ)されるか、二束三文で買い取られたことである。

収容所では、合衆国兵士になるか、日本への愛国心、天皇への忠誠心があるか、などの「忠誠質問」が実施された。こうした疑念を払拭(ふっしょく)するため、43年に日系青年たちが、「第442連隊」を編制し、欧州各地の激戦地で勇猛果敢に戦い、そのモットーは「当たって砕けろ(ゴー フォー ブローク)」であった。合衆国史上最大の1万8千近くの勲章を受章し、「パープルハート大隊」と言われた。

戦後になって、ようやく、70年代末期、日系人は長い間の沈黙を破りアメリカ政府に強制立ち退き・強制収容は間違いであり、謝罪と補償を要求する運動を開始した。90年に生存者に大統領から謝罪の手紙と2万㌦の小切手が送られた。この運動は、今日、反レイシズム運動を戦うかたわら、「黒人の命も大切だ(ブラック ライヴズ マター)」 運動と共闘している。

法政大学名誉教授・川成 洋

明石書店 定価2200円

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