
全日本吹奏楽コンクールは日本中の吹奏楽部員たちの憧れの舞台。そのステージで演奏するには厳しい予選を勝ち抜かなければならない。
地区大会、都道府県大会、支部大会と勝利してこそ、全国大会に出場できる。
高校生の部の全国大会代表校は30校。課題曲と自由曲を合わせて12分以内で演奏し、時間を超えると失格だ。
著者はこの吹奏楽部ドキュメンタリーで新分野を確立したライターで、コンクールに出場する若者たちの感動的なドラマをつづっている。
2024年10月、宇都宮市文化会館で開かれた全国大会で金賞を獲得した、千葉県立幕張総合高等学校をはじめ6校の吹奏楽部が紹介されている。全国大会まで行けなかった部もある。
ここにはプロの奏者たちにはないドラマの数々があり、それらがリアルに再現されている。自分自身との闘い、仲間とのぶつかり合い、熱い友情、演奏を極めていくことの困難さ、全力で取り組んだ喜び。
驚かされるのは綿密で徹底した取材ぶりだ。部長や部員数人に密着取材して、楽器演奏の履歴や、コンクールを駆け上がっていく劇的な過程が再現されていく。著者も同じような体験をしてきたのだろう。
感動を再現するカギとなっているのがノートにつづられた部員たちの言葉だ。指揮者である顧問先生の指導ぶりも見事だ。
進学校の場合、3年生になると多くは受験に専念するが、残っても7月の定期演奏会で仮引退する。しかしその後もとどまり、全国大会を目指す部員もいる。それにはオーディションがある。幕張総合高校で参加を希望したコールアングレ奏者はこう理由を記した。
「今まで辛いことや苦しいことから逃げることが多かった自分を変えたいです。人間としてもっと成長したいです。成長します」全身全霊で目標に向かう部員たちの姿は純粋で清らか。これが「12分間の青春」なのだ。
増子耕一
日本ビジネスプレス 定価1650円