
この本がテーマとするのはヒグマだ。
ヒグマは北方系、ツキノワグマは南方系。日本の哺乳類ではヒグマが最大。体重は秋が最も増える。冬眠するために栄養が必要だからだ。
ヒグマは地球の北方に広く分布するが、北海道のヒグマは大陸のものより小さい。北海道のヒグマには三つの系統がある。道北のヒグマが一番大きい。道東のヒグマは中間、道南のものは最小、と著者は分類する。ホッキョクグマは、進化の系統がヒグマに近い。両者は60万年前に分岐した。
2024年現在、北海道のヒグマは1万2千頭。個体密度は大陸に比べて極めて高い。エサが豊富だったためだ。北海道当局はヒグマを減らす方向だ。
ヒグマは危険な動物だが、人間とヒグマの交流・関係性には深い歴史がある。
『日本書紀』には、阿倍比羅夫(あべのひらふ)がオホーツク人から獲得したヒグマの子供の記事が記されている。
有名なのは、アイヌ民族に伝わるイオマンテの儀式だ。ヒグマの子供を捕獲・飼育し、殺して祭壇に祭る。その肉は共食する。ヒグマの霊を神の国へ送り返す儀式だ。
こうした儀式は大陸でも行われていたようだ。北海道のケースで言えば、「狩猟→狩猟型クマ送り→仔グマ型クマ送り」と変化してきた。仔グマの授受は、異文化間の交流のためにも使われた。なお、現在、クマ送りの儀式は日本では行われていない。
著者の勤務していた北海道大学では、1年生を対象とした「ヒグマ学入門」という授業が開講されていた。文系・理系を問わず、分野は多岐にわたる。人間との関わりも重要である以上、当然のことだ。
2014年~2023年の10年間、ヒグマの被害による死者は9人。ヒグマは札幌の市街地にも出没するようになった。これも「人間とヒグマ」の関係性を物語る。
文芸評論家・菊田 均
岩波新書 定価1012円