トップ文化書評『老いの失敗学』畑村洋太郎著 80歳からの人生を楽しむ【書評】

『老いの失敗学』畑村洋太郎著 80歳からの人生を楽しむ【書評】

『老いの失敗学』 畑村洋太郎著  朝日新書 定価924円

人生100年、という言葉が、比較的日常の会話の中で語られるようになっている。それにしても、やはり100歳とはすごい。そこに到達するバリアはもしかしたら80歳かなと思う。

なぜなら、書店で、「80歳……」というタイトルの指南書をよく見かけるからである。だが、管見(かんけん)であるが、70代の10年間がどうも難関なような気がする。それは活字などからの情報ではなくて、友人が80歳の手前で亡くなってしまうことが意外と多いからだ。この10年間で肉体も精神もがらりと劣化するのだろう。

ところで、「失敗学」という学問を確立し、長年それを提唱してきた著者が、「70歳を超えたあたりから、年々『老い』を自覚する機会が増えました」と本書の冒頭部で述べている。「失敗学」とは、的確な現状認識に基づき、失敗を未然に防止することを基本としている。ちなみに、JAL123便の事故も福島第1原発事故も、幾つもの未然に防ぐチャンスがあったのに、それを見逃されたのだった。

本書によると、「失敗」と「老い」に共通点があることに気付き、失敗の研究で得られた「失敗学」の知見を、老いの問題への対処に生かすことができるのではないか。しかも「老い」から不可避的に生ずる予期せぬ失敗をきちんと克服しつつ、老いてなお成長するというのは、まさしく理想の極みである。

さすが、「失敗学」の創始者だけあって、著者が遭遇したさまざまな失敗とその対処を詳(つまび)らかにしているが、「老い」の対策として、これは一生懸命にやればやるほどその成果が上がるというのではなく、「今よりちょっとまし」という程度である。もともとある機能が衰えていくのが老いなのだから、「余り労力をかけない」のが重要なポイント。軽い気持ちで対処するのが心の健康のために良いだろう。

自分の気持ちに対して無理をしないことが大切であると述べている。なんとも安心と自信を頂ける本である。

法政大学名誉教授・川成 洋

朝日新書 定価924円

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »