トップ文化書評『今、あなたに勧める「この一冊」』 川成洋・河野善四郎編 文学、政治、音楽などの本紹介【書評】

『今、あなたに勧める「この一冊」』 川成洋・河野善四郎編 文学、政治、音楽などの本紹介【書評】

『今、あなたに勧める「この一冊」』 川成洋・河野善四郎編  アユ総研叢書 定価1650円

本には無関心で、読書をすれば頭痛になるとか、眠たくなると平然と言う若い人たちに、「こんなに面白い本、こんなにためになる本があります」をうたい文句に本書は編集されている。

若い時に無知蒙昧(もうまい)な世界にどっぷりつかり、安逸に過ごすことに危惧の念を抱く人たちが、本書に寄稿している。執筆者は、30代から80代までのさまざまな職業の人たちであり、文学・12篇、政治・8篇、音楽・5篇、人生・6篇と実に多種多様な「一冊の本」を紹介している。

しかも各執筆者は、とっておきのこの「一冊の本」といかにして出会ったか、あるいは出会ってどのように自分が変わったか、といった内なる体験や印象を詳(つまび)らかに語っている点が面白い。

まず、「文学」の内容であるが、正直言って、若い人にとっては、よく見かける文学作品ではなく、初めて見るのが多いかもしれない。『深夜特急』『長いお別れ』『かくれ里』『良寛の呼ぶ声』『チボー家の人々』『プラテーロとわたし』『アルケミスト 夢を旅した少年』『カフカ短篇集』『アラバマ物語』『かもめのジョナサン』『顔を持つまで プシュケーの旅』『名著入門―日本近代文学50選』の12篇であるが、日、英、米、仏、スペイン、チェコ、ブラジルの文学作品、これだけ充実した作品が揃(そろ)えば、単なる文学入門以上の内容である。

しかも、「一冊の本」のほとんどが、文庫本、新書本であり、若い人が手軽に購入できるのではという優しい思いやりが感じられる。

「政治」は、何といっても、わが国の現代社会を反映してか、無為無策のまま彷徨(ほうこう)する醜悪な政治状況、軍国主義者が跋扈(ばっこ)した第2次世界大戦が双璧。本章巻頭の『日本国憲法』の編集は、なんと小学館写楽(しゃがく)編集部であり、これで十分、喝采である。後半の「音楽」と「人生」は、この種の本としては、誠に珍しく、心の休みにどうぞ、でしょうか。

評論家・阿久根利具

アユ総研叢書 定価1650円

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