
サメとは何か。サメの進化研究の第一人者ジョン・メイシ―博士が2006年に出版した『サメ・エイとは何か?』という著書で、40年以上にわたる研究の結論を出した。
それは、一般に「サメ」と言われている生き物を定義する形態的特徴が見当たらない、ということ。サメの何たるかが分からない、ということだ。
沖縄美(ちゅ)ら海水族館で研究活動を続ける2人の著者は、この結論に後押しされて本書を執筆したという。サメは人気者で、全長8・8㍍の巨大なジンベエザメを目当てに、同水族館には年間300万人を超えるお客さんが訪れる。
お客さんたちは分かりやすい説明を求め、文字数は少ないほどいいが、著者らはあいまいな世界を単純明快に語るわけにはいかず、これまで犠牲にされてきた未解決問題にスポットライトを当てて研究の最前線を示していく。
食べる、泳ぐ、拍動(はくどう)する、息をする、感じる、といった機能形態学から始まり、形態の多様性と進化史について語り、繁殖方法について論じていく。
2024年9月の時点で560種のサメがいるという。「有効種」という言葉を使うのだがその種数は日々変化していて、1990年代には300種で、30年間で260種増えた。新種が発見されるからだ。
種数でみると過半数は深海性で、特に多いのはメジロザメ目ヘラザメ属のグループ。映画『ジョーズ』のようなサメはスタンダードではないという。深海の環境は暗黒・低温・高水圧、餌の乏しい極限環境。
サメの体も代謝を少なくしてエネルギー消費を抑え、少ない餌を効率よく捕るという方向に進化した。成長は遅くなり、一世代が長くなる。スローライフの生き方だ。
ページをめくるごとに驚かされることの連続。変温動物なのにネズミザメ科の仲間は水温8・5度の海で体温26度を保持。彼らの奥妙で神秘的な世界に言葉を失う。
増子耕一
講談社ブルーバックス 定価1430円