
世界中を震撼(しんかん)させた米国ホワイトハウスでのトランプ大統領とゼレンスキ―大統領の首脳会談の決裂。これこそ前代未聞の応酬。これを見て、ほくそ笑むのは、ウクライナへの軍事侵攻を司令したプーチン大統領であろう。
ところで、プーチンは、1952年、サンクトペテルブルクに生まれ、レニングラード大学法学部卒業の75年に、秘密スパイ組織KGB(ソ連国家保安委員会)に入り、89年のベルリンの壁の崩壊後に急遽(きゅうきょ)、東ドイツから帰国。
市役所に勤務、最後は副市長に就任。91年12月、ソ連が崩壊する。96年にモスクワに行く。98年、KGBの後継機関であるFSB(連邦保安局)長官に就任。99年8月に、第1副首相、首相代行に就任。エリツィン大統領が彼を「自分の後継者にする」と公式発表。
このわずか1日で「3段飛びの大出世」を果たす。99年、大統領代行に就任。2000年3月27日、第2代ロシア大統領に就任。
彼の政治・外交・軍事の基本は1991年12月にソ連を崩壊させた米国を嚆矢(こうし)としてNATO(北大西洋条約機構)加盟国に対する「リバンチズム(報復主義)」に基づいている。ソ連の崩壊に連動して東欧のWTO(ワルシャワ条約機構)も崩壊し、東欧諸国は分裂したチェコとスロバキアを含めて17カ国、また旧ソ連を構成していた共和国は15カ国。これら諸国のうち、1999~2020年に加盟したのは17カ国である。未加盟のジョージア(グルジア)とウクライナは親米派へ転向し、しかもNATOに加盟する構えをみせていた。これがウクライナ武力侵攻の動機である。
ロシア軍に北朝鮮軍や中国軍が投入されている。こうしたロシア軍に危機感を深めたポーランドとバルト3国、さらにフィンランドは、1999年発効の対人地雷禁止条約(オタワ条約)脱退を初めて表明した。従来、ロシア軍を座視してきた国々が本格的な対露戦略を模索している。
法政大学名誉教授・川成 洋
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