
著者はルネサンス期イタリア史の研究者で、2017年秋からイタリアに留学し、ミラノに住む。カフェに入ってみるとお菓子やパンのショーケースがあり、カウンターでエスプレッソを飲んでみるとお腹の中が温かくなった。値段は1・1ユーロで、驚くほどの安さ。日本でのコンビニコーヒーくらいの値段だったという。
それから西洋のコーヒー文化について理解を深め、コーヒーと甘いお菓子から世界史を読み解き始めた。
エチオピアで飲用されたコーヒーがイエメンに伝わり、イスラーム圏に伝播(でんぱ)したのは大航海時代の16世紀。後押ししたのはオスマン帝国で、栽培を奨励し、さまざまな専用器具も作られた。同世紀末にはヨーロッパにも広まりカフェが発展する。
間もなくロンドンにコーヒーハウスが開かれると、瞬く間にイギリス中に広まって政治・経済・社会に影響を及ぼしていった。「公」の機能を発揮したためで、そこを拠点に新聞が作られ、郵便制度が整えられ、保険のビジネスも生まれた。学問とジャーナリズム発展の場でもあったという。
本書の特色は、大航海時代の植民地貿易から、産業革命、フランス革命、イタリアの統一、第1次世界大戦…と世界史の潮流を描くとともに、それを支えたカフェ文化の変遷を語る。
興味深い話題がたくさん登場する。美術館や博物館に併設されるカフェもその一つで、最初に登場したのは1851年のロンドン万国博覧会。現代ではファッションと美術館とカフェが関連して展開。美は食とも関係している。
一緒に語られるのはお菓子の歴史。1814年のウィーン会議の際オーストリア帝国の外相メッテルニヒの命令で作られた名物「ザッハトルテ」。ウィーンのパン屋が「敵を食べてしまおう」とオスマントルコ軍の軍旗の三日月をデザインしたクロワッサン。
今日、世界に展開するスターバックスまで話題満載だ。
増子耕一
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