トップ文化書評『イスラームからお金を考える』長岡 慎介著【書評】

『イスラームからお金を考える』長岡 慎介著【書評】

資本主義を超える知恵

ちくまプリマー新書 定価924円
ちくまプリマー新書 定価924円

著者がエジプトでの調査に協力してくれた人に「ありがとう」と言うと、怒られたという。

天国に行く可能性を高めるために協力したのに、感謝されると帳消しになるからだ。こういう心性を著者は利己的利他と呼ぶ。仏教の自利利他、キリスト教の天に宝を積むと似て、宗教に共通する教えなのだろう。開祖ムハンマドが商人だったことから、イスラームはそれを経済に発展させてきた。

例えば、無利子銀行の経営が可能なのは、融資でもうけた金を等分する「ムダーラバ」という仕組みがあるからで、これにより、利子を禁じるコーランの教えをクリアした。

重要なのは、銀行は貸すだけでなく事業も手助けするというから、寄り添い融資である。ムスリムの仲間意識がそれを可能にした。

義務的喜捨「ザカート」も盛んで、著者はイスラーム世界では社会の隅々にまで思いやりが満ちているという。自主的喜捨の「ワクフ」は、資産家が病院や学校などの公共施設を造り、併設する市場のもうけで運営を支援する仕組み。著者はイギリスで始まった株式会社や信託はイスラーム世界が起源だという。ルネサンス期までイスラームは先進地だった。

日本でも鎌倉時代から頼母子(たのもし)という互助の仕組みがあり、現在の信用組合の原型になった。今の沖縄の「ゆいまーる」で、伝統的な地域社会はそんな助け合いによって維持されている。

金融資本主義の弊害が明白になった現在、著者は資本主義がイスラーム経済の仕組みを取り入れ、改革することは可能だという。それだけの普遍性と柔軟性がイスラームにはあり、とりわけ、クラウドファンディングのようにサイバー空間を利用する経済に向いていると。

確かに、誰もが隣人と思い合える社会にならないと、資本主義は修復できない。がぜん、イスラームに興味を覚えた。

          多田則明

 ちくまプリマー新書 定価924円

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