トップ文化書評『文芸編集者、作家と闘う』山田裕樹著 伴走者としての回想記【書評】

『文芸編集者、作家と闘う』山田裕樹著 伴走者としての回想記【書評】

『文芸編集者、作家と闘う』 山田裕樹著  光文社 定価2750円

「文芸編集者」とタイトルにあるので、純文学系の編集者と思ってしまうが、実際はエンターテインメント系の編集者のことである。

といっても、現在は純文学とエンターテインメントの区分自体がアイマイになっているので、その辺りは意味がない。

編集者の回想というと、作家とのエピソードなどの思い出などが多い。芥川賞や直木賞などの賞のこと、作家との原稿のやりとり、内輪話、作家論などになってしまうことになるのが普通だ。

だが、本書は文字通り、編集者としてどのように作家を育て、本を作ってきたか、知られざる楽屋話にもなっている。有名な作家だけではなく、まだあまり注目されていない作家に文字通りつきっきりで力作を書かせた話など自伝的なエッセーでもある。

担当したのは、編集者が新人のときには森瑤子、筒井康隆、小林信彦などで、その後、純文学からエンターテインメント系の小説を書き始めた北方謙三、椎名誠、逢坂剛、船戸与一、佐藤正午、夢枕獏、東野圭吾、高野秀行などである。

特に、北方謙三、船戸与一との交流は、まさにエンターテインメント作品の裏側が生き生きと描かれていて興味深い。

北方謙三の代表作である歴史時代小説の北方版「水滸伝」のシリーズは、まさに原稿を読み、付箋を貼って気付いたことなどを作家の内面まで入っていって事細かにアドバイスしているほど。

なおかつ雑誌の編集や本の製作なども手掛けて、眠る暇もないほどの忙しさ。

そのほか船戸与一との同行取材では、フィリピンでの破天荒な取材をして、領収書のことなど、こんなことを書いていいのか、と思うほど危ない話がある。

その意味で、今のサラリーマンのような編集者とは一線を画していることは間違いない。時代の証言として貴重かつ示唆に富む内容が多い。

          羽田幸男

 光文社 定価2750円

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