
会田雄次『敗者の条件』(中公新書)という本がある。60年も前に刊行されたものだ。それを思い出した。
この本に登場するのは、源義経・西郷隆盛・山本五十六・明智光秀・石田三成・田沼意次・後鳥羽上皇・織田信長の8人。
西郷は「征韓論」でも有名だ。この政争に敗れた西郷は明治10年、西南戦争に打って出た。戦争資金は60万円。政府軍は4160万円。
著者は西郷の「冴え」のなさを指摘する。健康問題もあった。戦争目的も曖昧。最後は西郷軍400名という状況の中、自害した。
山本も敗者か?、と思ったのは、真珠湾攻撃(1941年)の印象が強いためだ。翌年のミッドウェー海戦の惨敗を考えれば、彼も敗者だと分かる。
日本海軍は、軍令部と連合艦隊の二階建て、と言われる。上級司令部である軍令部よりも、連合艦隊の発言権が強くなった。真珠湾の成功が発言力を高めた面もある。
ミッドウェー海戦の時、軍令部に対して山本は十分な説明をしなかった。指揮下の部隊や連合艦隊参謀に対しても同様だ。
軍令部に対して山本は、連合艦隊司令長官を辞職することを示唆する言動もあった。側近が辞職を伝えたが、軍令部はミッドウェー作戦を山本に任せた。
田沼意次。側用人(将軍側近)と老中(閣僚)を兼務するケースは珍しい。田沼評価は、金権政治家? 自由経済の推進者? 失敗も多い、と変化している。
信長は改革者ではない、と著者は指摘する。中世的秩序を温存した人物との評価だ。彼の致命的な欠陥は、部下が信長に対して抱く不満に全く気付かない点だ。本能寺の変は、織田家というブラック企業の必然、という指摘は興味深い。
歴史学者らしく、史料を読み込む中で生まれた見解は説得力十分だ。
文芸評論家・菊田 均
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