トップ文化書評『海がつくった国際都市』加藤隆久著 神戸の歴史をたどる散歩【書評】

『海がつくった国際都市』加藤隆久著 神戸の歴史をたどる散歩【書評】

『海がつくった国際都市』 加藤隆久著  アートヴィレッジ 定価1430円

著者は、神社を支える44戸の神戸(かんべ)が神戸という地名の由来になった生田神社の名誉宮司。カラーグラビアに、神戸市垂水区の五色塚(ごしきづか)古墳から明石海峡大橋を遠望する写真がある。海上交通の要衝に4世紀後半に築造された兵庫県下最大の前方後円墳は、海との関わりが深い有力者の墓であろう。同古墳の整備・再現を構想した考古学者の坪井清足(きよたり)は、古代技術の粋を集めた五色塚古墳と現代技術の粋を集めた明石海峡大橋とを見比べられるようにしたのである。

明石海峡大橋は建設途中、阪神・淡路大震災に見舞われた。震源は明石海峡の真下だったが、最も心配された300㍍の主塔は40㌢傾いただけで安全の範囲に収まり、地震で伸びた海峡幅1㍍は橋桁の設計変更で対応できた。地震発生前に、世界初のヘリコプターによるパイロットロープ渡海で張られたメインケーブルが、2本の主塔を両岸から引っ張っていたので、マグニチュード7・3の振動に耐えられたのである。もし、メインケーブルが張られていなかったら主塔は倒れていたかも分からず、明石海峡大橋は天にも守られていたのであろう。

大橋が着地する神戸側の舞子公園にあるモニュメント「夢レンズ」には「人生すべからく夢なくしてはかないません」という、戦前、明石海峡大橋の架橋を提言した原口忠次郎元神戸市長の言葉が刻まれている。

神戸港の前身が奈良時代に行基が開いたとされる大輪田泊(おおわだのとまり)で、日宋貿易の拡大を目指す平清盛は、山手の福原に都を移し、その南にある泊を整備して大型船が入港できるようにした。強風と荒波を防ぐため、JR兵庫駅の北にある塩槌山(しおづちやま)を切り崩し、その土砂で人工島を造ったのは、現代のポートアイランドに匹敵する大規模工事である。清盛は国際貿易港神戸の生みの親で、神戸市民は世評に反し清盛を敬愛してきたという。

多田則明

アートヴィレッジ 定価1430円

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