トップ文化書評『新編 空を見る』文・平沼洋司、写真・武田康男 魂の栄養になってきた大空 【書評】

『新編 空を見る』文・平沼洋司、写真・武田康男 魂の栄養になってきた大空 【書評】

『新編 空を見る』 文・平沼洋司、写真・武田康男 ちくま文庫 定価946円

著者は気象庁に勤務し、各地の気象台で観測と予報の仕事をしてきた気象学者。本書は、「空の写真家」武田氏の美しい写真の数々と共に、さまざまな気象現象について語ったフォト・エッセー。

ところで大空は太古から人間にとって思索の場であり、人生の思いを託す場でもあった。空や雲には心身を豊かにしてくれる何かがあったのだ。本書にはたくさんの詩や物語が登場し、魂の栄養になってきたことも教えてくれる。

例えば「光芒(こうぼう)」というのは、雲間から太陽の光が差し込んできて、光の束のように見える現象だ。仏像の光背(こうはい)もそれを表したもの。外国でもその美しさは同様に感じられてきたが、代表的な事例は旧約聖書に登場する「天使の梯子(はしご)」だ。

イスラエルを旅していたヤコブが、この光芒を通って天使が行き交うのを見たという記述がある。太陽の光が放射状に延びることは当たり前のことなのだが、ここではその神秘性が強調された。

雲の種類について世界の共通語となっているのは十種雲形。さまざまな名前で呼ばれてきた雲形が、科学的に整理されていった過程を紹介している。「巻雲」を評者は学生時代「絹雲」と学んだことがあった。

「巻雲」の巻は「当用漢字音訓表」でケンと呼べないことから1964年、「絹雲」に変えられ、新田次郎が反対したが受け入れられなかったという。だが1988年に再び「巻雲」に戻されたとのこと。巻はその雲の形を表した文字だった。

蜃気楼(しんきろう)は、密度の異なる二つの空気の層を光が通過する時起きる現象。幻想的な光景で小説にもよく登場した。井上靖『城砦』、福永武彦『海市』、芥川龍之介『蜃気楼』その他。

空を眺めることは天気を知るだけでなく、心を豊かにすることでもある。大空の写真はみな力のこもった傑作品で、「波頭雲」や「カルマン渦」など、めったに見ることができないものまで登場する。

増子耕一

ちくま文庫 定価946円

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