
80歳以上の「長寿期」に入ると老いは一気に進むと言われいる。
私もその年になり、どこも体が悪くなく、四十数年間も続けていた武道の稽古をちゃんとこなし、70歳定年で教員を辞めても、26歳以来の仕事の延長として町のカルチャーセンターなどで教え続けている。
なので、このままでいいやと思いつつも、それでも何となく不安で、80歳以上の人を対象とする本を数冊読んでみたが、はっきり言って、これらは駄目だと思った。つまり、この種の執筆者は、確かに医療関係者であり、その分野の情報がもっともらしく述べられているが、執筆者が還暦を過ぎたくらいであり、残念ながら「長寿期」の人生体験がない。
それに反して、本書のサブタイトルに「90歳現役医師が実践する」とあるように、自分の体験に基づいて書いているのだ。「90歳」と「実践」の二語が私の心を捉えたのだった。
本書によると、長年、老年医学研究を続けてきた著者は、1959年に東京大学医学部を卒業して以来、ほぼ毎年同窓会に参加してきた。同期の卒業生は全部で80人、そのうち2024年の参加者は15人。ほとんどが90歳前後だから、当然といえば当然か、と述べている。
著者自身も、糖尿病、前立腺の病気であり、また杖を使って歩行しているが、「年を取れば、病気の1つや2つ、あって」当然。歩ける、話せる、聞ける、食べることができれば、病気を気にすることはない。つまり、病気があるかないかよりも、トータルに見て機能障害がなければそれで良し。
75歳以上の高齢者を対象とした研究は少ない。「教科書」となるべき指標も無く、個人差も大きい。それで「無病息災」を願うのではなく、「一病息災」路線でいくのが賢明であろう。
本書の極意は、「細かいことは考えず、自由気ままに生きればいいのだ」である。何となくホッとするメッセージである。
法政大学名誉教授・川成 洋
朝日新書 定価924円