
ドイツ文化といえば、何と言っても、べートーヴェン(1770~1827年)の『第九交響曲』(1824年)である。ベートーヴェンが構想から約30年、難聴などの辛苦を経た末の傑作である。
混声合唱が付き、演奏時間は約70分と長い。この交響曲が昨年、世界初演から200年を迎え、日本では年末恒例の風物詩として定着している。この曲に込められたメッセージは「自由・平等・博愛」である。
あの冷戦終結を象徴した1989年11月9日のベルリンの壁崩壊の翌月、12月25日、東西のドイツの音楽家を中心に、世界中の音楽家がベルリンに集まり、『第九』を高らかに歌い上げた。指揮した巨匠バーンスタインは第4楽章で歌われる歌詞中の「歓喜」を「自由」に言い換えて、冷戦終結との一体感を演出した。その歌詞中の「時流が強く切り離したものを君の不思議な力は再び結び合わせ、全てが兄弟となる」は忘れてはならない。
『第九』はEU(欧州連合)の音楽的シンボルとして採用されるようになった。
ベートーヴェンは、若い時、文学的に早熟な青年と知り合いになった。だが、2人はかなり年齢が離れていたためか、性格も合わなかったようで、いつの間にか関係は消えてしまった。
文学的に早熟な青年とは、ゲーテ(1749~1832年)であった。ゲーテは、帝国都市フランクフルト皇帝付参与を父に、フランクフルト市総監の娘を母として生まれる。ゲーテは、父が厳選した「私教師」によって欧州古典語、仏、伊、英の3カ国語、さらに法律学の教育を受け、1770年21歳でシュトラースブルク大学に進学し、翌年法学博士、弁護士となる。さらに、74年に出版した『若きウェルテルの悩み』で文壇にデビューする。
音楽・文学のこれほどの巨匠を生み出し、またその裾野の広大なドイツ。本書はそれ以外、建築、絵画にも触れている。
法政大学名誉教授・川成 洋
丸善出版 定価2200円