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『こんなにひどい自衛隊生活』小笠原理恵著 愛国心の搾取をやめよ

『こんなにひどい自衛隊生活』 小笠原理恵著 Hanada新書 定価1089円

「何一つまともに修理すらできない組織に国を守るなんて大きなことができるはずがない」

辛辣(しんらつ)ではあるが、本書に引用された、自衛隊をいずれやめようと考えている現職隊員の言葉である。

入隊者数は右肩下がり、中途退職者も後を絶たない。日本の国防を担う自衛隊の現状だ。現職・元職の隊員たちの声を通じ、ブラックボックス化している自衛隊の組織としての問題点を本書は浮き彫りにする。しかし、ただの自衛隊批判ではなく、国の安全と隊員たちの身を憂うからこそ、改善を求めているのだ。

隊員たちが暮らす官舎は、いつの時代かとあきれるようなバランス釜の風呂が設置されているところもあり、退去費用も自腹という。訓練時に使う戦前に建てられた廠舎(しょうしゃ)や、見るだけで体がかゆくなるような寝具や穴だらけのアイロン台など、目を疑う写真の数々が本書に掲載されている。

著者が比較対象としているのが米軍で、派兵先であっても極力シャワーや温かい食事を確保して体力を温存させるのが、その強さの秘訣(ひけつ)と語る。

もちろん自衛隊も少しずつ改善はされており、古い建物の建て替え計画もあるという。ただ、それが遅々として進んでいない一因には、「自衛隊に金をかけるな」という一部の風潮がある。

自衛隊は2018年、自衛官の採用年齢を26歳から32歳に引き上げたが、入隊後数年間は営内(駐屯地・基地内)での集団生活が義務付けられている。32歳なら結婚している人も少なくなく、愛する家族と離れ離れの生活をあえて選ぶ人がどれくらいいるだろうか。

中途退職者が相次ぐ背景には、こうした自衛官・自衛隊員の待遇の問題があると考えざるを得ない。入隊者数の減少も、少子化問題だけでは片付けられないと著者は指摘している。

自衛隊員の健康と安定した生活こそ、平時の国防である。国を守るために日々訓練する隊員たちへの冷遇は、愛国心の搾取(さくしゅ)に他ならない。保守層こそ、この現実に目を向けるべきだ。

辻本奈緒子

Hanada新書 定価1089円

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