トップ文化書評『五木寛之傑作対談集Ⅰ』五木寛之著 読書家だったアリ氏と長嶋氏【書評】

『五木寛之傑作対談集Ⅰ』五木寛之著 読書家だったアリ氏と長嶋氏【書評】

『五木寛之傑作対談集Ⅰ』 五木寛之著 平凡社 定価1980円

本書は、作家の五木寛之の対談集だが、文学者だけではなく運動選手などのユニークな相手が選ばれていて驚きを与えられる。例えば、ボクシングのモハメド・アリ。アリ氏は必ず遠征に行くときは本を持っていくほどかなりの読書家で、社会問題に対しても鋭く切り込み、かなり饒舌(じょうぜつ)だ。

そのほか長嶋茂雄の対談では、よく冠される表現に、「カンピュータ」「考えるよりも勘でやっている」といったものがある。

その長嶋氏は、やはりかなりな読書家で、五木氏の本も何冊か読んでいて、疑問に感じたことを逆に質問したりと、まさに考える人の趣さえある。

ではなぜ物事をあまり考えないイメージがスポーツ選手にはあるのだろうか。

こうしたステレオタイプなイメージを植え付けているのが、マスメディアではないかという気がしてくる。

その意味では、本書に登場する各界の著名人物は日本のみならず外人も含まれていて、ホストの五木寛之の幅広い知的な好奇心と博識ぶりには、少し驚かされる。

対談相手には、村上春樹、美空ひばり、ミック・ジャガー、赤塚不二夫、篠山紀信、坂本龍一、福山雅治、太地喜和子などバラエティーに富んでいる。

それこそ文学者のみならず、ミュージシャン、写真家などと幅広い。しかも、その話題も相手の分野に踏み込み、同じ舞台に立っての発言も少なくない。

作家はその作品世界を生み出すために、どうしても他人をシャットアウトした世界で孤立的になりがちだが、五木氏の場合は、そうした垣根は全くない。

その新しいものに対する好奇心を失わないあたりが、90歳を超えてもいささかも衰えずに作家活動(といってもエッセーが主体)にいそしんでいる原動力かもしれない。

高齢化社会においては、それだけでも貴重な存在であるといっていい。

羽田幸男

平凡社 定価1980円

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