トップ文化書評『野生のうたが聞こえる』アルド・レオポルド著 倫理は人間と自然の間にも【書評】

『野生のうたが聞こえる』アルド・レオポルド著 倫理は人間と自然の間にも【書評】

『野生のうたが聞こえる』アルド・レオポルド著 ちくま学芸文庫 定価1540円

本書は環境倫理学の古典的な著作で、野生生物生態学者であり森林官であった著者が、「土地倫理」という概念を提示したことで、環境保全運動に関心を持つ人々の必読書となった。

1948年3月に書き上げられたが、著者は翌月に亡くなり、その後に刊行された。

レオポルドは1887年米国のアイオワ州で生まれ、子供の時からミシシッピ川の岸辺で鳥を目にして育ったという。イェール大学付属シェフィールド科学学校で学び、理学博士の資格を得て、1909年アリゾナ地区アパッチ国有林で森林官助手に。国有林での仕事が始まり、ニューメキシコやイリノイその他で調査を重ねた。

33年ウィスコンシン大学教授として迎えられ、37年生態学協会会長に就任。晩年はウィスコンシン州にある砂土地方の見捨てられた農場を買って小屋を建て、週末、家族ぐるみで自然観察を続けた。

本書の第1部「砂土地方の四季」は、そこでの観察、経験を月ごとに1年を通して記したもの。驚くほど詳細な記述で、動物も植物も大気も生き生きと描かれ、独自の考察が随所にあり、全体を捉える視点は美的なもの。芸術家の心を持った科学者なのだ。自然界の中での自分の生き方をも示し、環境倫理学の基礎にある、人と土地との「共生」の実際を語る。

第2部「スケッチところどころ」では、アリゾナやニューメキシコはじめ国有林での自然保護と土地管理実践的な経験を披露する。

土地倫理の考え方は第3部「自然保護を考える」で展開される。倫理は人間と人間の間に成立するものと捉えられてきたが、著者はそれを、人間と人間以外の自然的存在との間に要請される倫理と主張した。

根底にあるのは「共生」の思想で、共同体の概念を土壌、水、植物、動物、それらを総称した「土地」まで拡大した。その根拠を食物連鎖、エネルギーの循環で示して説得力がある。(新島義昭訳)

増子耕一

ちくま学芸文庫 定価1540円

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