トップ文化書評『この銃弾を忘れない』マイテ・カランサ著 内戦捕虜の父を助けた実話【書評】

『この銃弾を忘れない』マイテ・カランサ著 内戦捕虜の父を助けた実話【書評】

『この銃弾を忘れない』 マイテ・カランサ著  徳間書店 定価1870円

本書の舞台は、1938年のスペイン。実は、1936年7月18日払暁(ふつぎょう)、スペイン全土の50カ所の陸軍駐屯地で共和国政府への軍事蜂起が起こった。これに対して、市井の市民や労働者たちが果敢に武力抵抗し、なんと20日には、マドリードとバルセロナの両駐屯地、数日後バレンシアの駐屯地を制圧した。この三大都市の陥落を引き起こした反乱軍の失敗のため、内戦となった。

間もなく反乱軍にドイツとイタリア、共和国軍にソ連が軍事支援し、さらに55カ国から約4万人もの義勇兵が戦列に加わり、「第二次大戦の前哨戦」といわれたのだった。

本書の主人公13歳のミゲルは、スペイン北部の炭鉱村のバルエロに両親と5人の弟・妹と暮らしていた。内戦勃発時に反乱軍がこの村を制圧し、父親は村を飛び出し、共和国軍に加わる。

噂(うわさ)では捕虜となり銃殺されたようだ。ところが戦傷で除隊した反乱軍兵士が捕虜収容所に父親がいると知らせてくれる。それで、母親の要請で、愛犬グレタを連れて200㌔離れた父親を探しに出かけ、半月後ようやく父親を発見。

ひどく痩せていた父親。有刺鉄線の間から父親宛ての食料品を渡すと、仲間と分け合う。ミゲルは食料品を市内でかき集めるためにここに逗留(とうりゅう)する。やがて父親を含めて13人の捕虜がビスケー湾に連行され、ミゲルも秘かに彼らの後について行く。

反乱軍兵士は彼らを突堤の上で海を背にして並ばせ、脚を撃つ。すると海に落ちる。「死ぬのに時間がかかるから」とは、撃ち終えた兵士の言い草だ。幸い父親は崖の途中の木に引っ掛かり、ミゲルが救出する。

知り合いの所に連れて行き、脚から銃弾を摘出してもらう。まだ温かい銃弾をポケットにしまい込む。その後母親を連れて父親の潜む場所に連れて行き、2人はさらに逃亡を続け、ミゲルはバルエロ村に戻る。

本書は、実際にあった話。1939年4月1日、反乱軍が勝利し、内戦が終結する。(宇野和美訳)

法政大学名誉教授・川成洋

徳間書店 定価1870円

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